第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
程なくして胡蝶は考え込むような表情で戻ってきた。
「胡蝶、雪柳はどうなんだ?」
「単刀直入に言います。…あれは、間違いなく血鬼術です」
「血鬼術…」
「その血鬼術は少々厄介でして…」
胡蝶は視線を逸らすと、息を大きく吐いた。
「…確信はないですが、おそらく催淫剤的な血鬼術かと。なにか思い当たる節はありますか?」
「…あの鬼が"この村の女のように慰み者にしてやろう"と言っていたが…」
「催淫剤のような血鬼術で女を慰み者にし、食べていたのでしょう…胸糞悪いですね、本当に」
胡蝶の額に青筋が浮いた。
「…これで確信に変わりました。伊黒さんはお帰りになって大丈夫です」
胡蝶はそういうと立ち上がり、部屋を出て行こうとした。
「待て」
「なんでしょう?伊黒さん」
「それは俺ではダメか?」
俺は立ち上がると胡蝶を見下ろした。
「はぁ…恋人ではないあなたに任せられると思いますか?ここは、女である私が適任だと思いますけど?」
「いや…そうなのだが…俺は雪柳が好きなのかもしれない…」
胡蝶はこの言葉に目を見開き、しばらく固まっていた。
「まぁ、伊黒さんもそんなお気持ちがあったんですね」
「…俺もそう思ってる……が、胡蝶。本人を前に言うことではないだろう」
「たしかにそうですね…雪柳さんを傷つけることはしないでくださいね。…その前に、雪柳さんの気持ちを聞きにいきましょうか」
「あぁ…」
俺と胡蝶は雪柳のいる診察室へ向かった。
❄︎
俺は雪柳を連れて俺の屋敷に帰った。
雪柳は気を失っていた。
そのため、胡蝶の許可を得てから連れてきたのだ。
ただ、そのための約束事が少しできた。
そのひとつが雪柳が嫌がることをやらない。
これが約束事のひとつ。
雪柳は体温も高く、息も荒いまま気を失ったままだった。
布団に寝かすと隊服を脱がせると、中に着ているシャツが汗で肌に張り付いていた。
俺は部屋を出ると桶にお湯と手ぬぐいを持って部屋へ戻った。
襖を開けると雪柳が目を覚ましたようで、うずくまっていた。