第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
鬼の気配を辿り、村の北側を目指していた。
そこには小物であろう鬼が数体いた。
手間取ることなく、鬼の頸を斬ることができた。
「…雪柳が遅い…さほど広くないのに、時間がかかり過ぎだ」
そう呟いたとき、雪柳が連れている鴉が飛んでくるのが見えた。
「!?どうした!雪柳になにかあったかのか!?」
「オソラク 十二鬼月!椿姫 血鬼術!捕マッタ!」
鴉はバサバサと翼を動かし、先導する。
血鬼術で捕まった…雪柳は無事なのか、背中に冷や汗が流れた。
俺は南東の方角にあるさほど大きくない山に連れてこられた。
近づくにつれて、鬼の気配がある。
「…下弦か…?」
日輪刀に手を置き、山へ足を踏み入れた。
しばらく歩くと、血が点々と落ちているのが目に入った。
「…まだ新しい……雪柳ーっ!」
俺は周りを見渡しながら声を上げた。
この声が聞こえれば、雪柳本人が来る可能性もある、そう思ったからだ。
「また、鬼狩りか…」
山の頂上の方から声が聞こえた。
そちらを見ると、雪柳が倒れているのが見えた。
所々赤く染まっていて、少なからず血を流しているようだった。
「…お前が、やったのか?」
俺は日輪刀を鞘から抜き取った。
「あぁ、オレがやった。あの娘の血は美味い。いい匂いがするからなぁ」
鬼はニヤリと笑い、舌舐めずりした。
「この村の女のように慰み者になってもらおうかね」
その鬼の一言で俺は頭にきたらしい。
一瞬にして鬼の頭と身体が離れて、転がっていた。
鬼は消えながら口を開いた。
「あの女…苦しむぞ…」
消える前にニヤリと笑うのが視界の端で見えた。
それを気にすることなく、倒れている雪柳に近づいた。
遠目では分からなかったが、少し様子がおかしいことに気が付いた。
「雪柳…?」
俺は雪柳に近づき、肩に触れた。
雪柳は身体をびくりと震わせ、潤んだ瞳で俺を見上げた。
なぜか頬を赤く染め、息が荒い。
『っ…は、ぁ…はぁ…』
「どうした?大丈夫か?」
雪柳は小さく頷くと、起き上がろうと腕に力を入れるが、上手く力を入れられないのかそのまま倒れ込む。
『っ…』