第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
わたしは村の南の方を注意深く見つつ、走っていた。
血の痕がある割に、人の姿は誰も見かけないことに冷や汗が背中を伝う。
『…十二鬼月でしょうか……嫌な気配がすることにはするんですけど…漂いすぎてよくわかりません…』
立ち止まると日輪刀に手をかけ、目を閉じる。
鬼の気配を探る。
この近くには鬼の気配はないようで、動く気配すらない。
『…気配がないのか、気配を隠すのが上手なのか、ですね…』
目を開けると、一通り村の中を見て回ろうと再度走り出した。
❄︎
村の東側に行く途中にさほど大きくない、山があった。
山の方向から鬼の気配を微かに感じ、いつでも日輪刀を抜けるように手をかける。
『…まだ、連絡はいいでしょう…行きましょう』
わたしは鴉に話しかけると走り出した。
しばらく山を登ると、頂上の方から複数の鬼の気配があることに気がついた。
『鬼は群れないはず…どうして…』
背中に冷や汗が伝うのを感じつつ、気配を探るように周りを見渡す。
「オレの気配に気付くとはな、お前何者だ?」
頂上の方から1体の鬼が姿を現した。
体格の良い鬼のようだ。
『…わたし、ですか。わたしは鬼狩りです。姿を現しましたね』
わたしは内心の焦りを隠すように、深呼吸をしてから話し出した。
「ちっ…鬼狩りか…お前、いい匂いするなぁ?」
鬼は舐め回すような視線でわたしを見ると、舌なめずりした。
「この村の娘より美味そうだ」
そういうと、わたしに向かって攻撃をしてきた。
『雪の呼吸 弍ノ型 白雪』
鬼の攻撃を避けるように、舞を踊るような動きで大きく円を描きながら空中で身体を捻り、鬼の頸を斬る。
が、鬼は容易く避けていた。
『なっ!?』
「動きは悪くない、柱になったばかりか?」
鬼はニヤリと笑うと、
「血鬼術 ーーーーー」
血鬼術を使った。
『!?』
わたしは身体が動かなくなり、その場に立ち止まる。
『っ…なにをしたの』
鬼を睨む。
鬼はその様子を見て、楽しそうに笑いわたしに近づいた。
「身体の自由を奪う血鬼術。どうだ?オレの血鬼術は」
鬼は舐め回すようにわたしを見ると、わたしに手を伸ばした。
❄︎