第10章 藤の花のかおり【冨岡義勇】
俺はいつ頃からか雪柳を目で追うようになっていた。
雪柳はいつも敬語を話しているが、慌てたときは敬語が外れ年相応に見えることがあった。
その時に初めて雪柳を好いていると分かった。
(本当は胡蝶や宇髄に揶揄われて気付かされたのだが…)
本当はこの気持ちを伝えようとは思っていなかった。
だが最近、雪柳の親族がお館様を訪ねて来たという噂がたっていた。
初めは嘘が広がったのだろう、じきに収まると思っていたら収まるどころか大きくなり始めていた。
宇髄に
「雪柳、どっかに嫁ぐらしいな」
と言われ、初めて本当なのだと気づいた。
そこから行動に起こすまで早かった気がする。
次に会ったら想いを告げよう、そして他の男に嫁ぐくらいなら俺と夫婦になろうと。
雪柳は戸惑いつつも俺の言葉に頷いてくれた。
俺は嬉しくて、柄にもなく雪柳を抱き寄せた。
ふわりと香る藤の花の香りと、雪柳自身の香りが混じり合い甘く魅了される香りが鼻腔をくすぐる。
俺は雪柳の頬に手を伸ばし、雪柳の顔を上を向かせると自身の顔を近づけちゅっと触れるだけの口づけをする。
顔を離すと顔を茹でだこのように真っ赤に染め、困ったように微笑んだ。
俺は雪柳に何度も何度も口づけをした。
触れるだけの口づけから、舌を絡め口内を撫で回すような激しい口づけを繰り返すと、雪柳は蕩けていくような表情を浮かべていた。
「ふっ…そんな顔をするな、制御できそうにない…」
俺はそう言ってから雪柳を横抱きにすると、居間を出て寝室へ向かう。
『ひゃっ!?え、冨岡さん!?』
雪柳は驚いたように俺の首筋にぎゅっと腕を回す。
ぎゅむっと雪柳の胸が当たっているのを感じつつも、表情に出すことなく寝室に着くと敷いたままの敷布団の上にそっと下す。
「雪柳…いや、椿姫」
俺は椿姫の瞳をじっと見つめると、椿姫も俺を見つめ返してきた。
「祝言を挙げてからと思っていたが、我慢ができそうにない。…いいか?」
俺は気持ちを真っ直ぐに伝えると、椿姫は頬を染めつつもこくりと頷いた。
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