第10章 藤の花のかおり【冨岡義勇】
「それは親戚のことか」
冨岡さんは迷うことなくそう言う。
わたしはため息をつくと、こくりと頷く。
『えぇ、まぁそうですね。冨岡さんにも話がいっているのは驚きですけど』
わたしはお茶を一口啜ると、口を開いた。
『わたしの両親が亡くなっていることは知っていますよね?父方の親戚がわたしを引き取り、養子にしたいと話しているそうなんです』
ふぅーっと息を吐き出す。
冨岡さんは口を挟むことなく、ただわたしの話を聞いている。
『その親戚とは両親が生きている頃からそうでしたけど、亡くなってからも関わりはほぼありませんでした。少し前の任務でその親戚が住む町に行き、偶然会ったんです。なんて言われたと思います?』
わたしは冨岡さんにそう聞くと、冨岡さんは考える素振りを見せるが、ゆっくり首を横に振った。
「想像がつかない」
『だと思いました。"そのはしたない格好はなんだ!"って怒鳴られました。案外分かるんですね、ほぼ関わりがなくても。それから、わたしを頭のてっぺんから足の先までじろじろと見て気持ちの悪い笑みを浮かべました。"あぁ、これならあの家に嫁に出しても問題はなさそうだ"と』
思い出しただけでも胸糞悪い。
『下品な笑みまで浮かべて、わたしの身体を見てたんです。わたし頭に血が上っちゃって…凄い怒鳴っちゃったんですよねー。わたしの格好を覚えていたのでしょうね、その町の人に聞いたらしくてわざわざお館様に訪ねてきたと』
わたしは大きなため息をひとつつくと、にこりと笑みを浮かべた。
『その親戚のおじさんがお館様に"うちの親戚の娘だ。うちで引き取らせてもらう"と大騒ぎをしたらしく、わたしに烏が来ました。わたしはその人がいるうちは行かないこと、関わりのない人だから適当にあしらって欲しいことなど烏に文を託しました。後から聞きましたが、わたしに婚約させようとしているみたいです』
そこまで話すと冨岡さんは口を開いた。
「…雪柳、お前はどうしたいんだ?」
『はい?わたしですか…そうですね…このままのらりくらりと交わし続けられると思っていないです。お館様と相談した上での結論ですが、鬼殺隊士もしくは藤の花の家のどなたかと形だけでも祝言を挙げようかと』
婚約者と祝言を挙げただけだ、と言えれば相手も黙りましょう、とわたしは一言吐き捨てた。
