第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
お館様から、合同任務と言われた。
わたしたちは、その足で任務先へ向かった。
『伊黒さんと合同任務、初めてですね』
わたしは口元に手を持っていくと、手の甲で口を隠すように笑う。
(どこぞのお嬢様が腰に手を当てて、口元に手の甲を当てて、高笑いする様な格好に近いが、わたしのはそれではない。)
「あぁ、そうだな」
『柱が2人呼ばれるってことは、十二鬼月の可能性があるってことですね。…気を引き締めなくては……』
わたしは両手をぐっと握った。
「俺もいる。そんなにガチガチになると動けないぞ、雪柳」
『そうなんですよね…相性の悪い鬼じゃないといいですけど…』
このときのわたしは、あんなことになるなんて知るよしもなかった。
❄︎
任務場所近くに着くと、血の臭いが充満していた。
この村は生きている人間はいないだろうと、口には出さずとも分かるくらいの臭いだった。
『…ここまで臭いが……二手に別れますか?』
「あぁ。さほど広くはないだろうが、生きている人間もいるかもしれない。なにかあれば鴉を飛ばせ」
『分かりました。伊黒さん、お気を付けて』
わたしは返事を聞く前に南方向へ走り出した。
❄︎
俺は鴉を連れて走り出すと、頭の端で雪柳のことを思い出していた。
普段、身だしなみなどがしっかりしているのに、今日は髪の毛がはねていた。
いつもと違う姿に、なぜか胸が高鳴った。
顔を赤くしたり、潤んだ瞳で上目遣いされ、心臓が忙しなく動くのを感じた。
女は苦手だ。
いまでも変わることはない事実。
それでも、雪柳といると、それが嘘かのように普通に接することができる。
いい加減、余計なかんがえをよそうと気持ちを切り替える。
「…気を引き締めるぞ」
自分に言い聞かせるように、走る速度をさらに上げた。
しばらく走ると、村の北側に鬼の気配があることに気付いた。
俺は鬼のいる方に走り出す。
雪柳は反対側の南にいるはず、鬼とは遭遇していないだろうと頭の隅で思いつつ、日輪刀に手をかけた。
❄︎