第8章 令和時代からこんにちは【伊黒小芭内】
椿姫さんは、どこか影のある人だと思った。
それに人間を恐れているように見えた。
特に男性を。
『似ているけど、全然似ていないよ』
わたしはぽつりと呟く。
茶の間を出て、廊下を挟み大きな窓がある。
その扉を開けると爽やかな風が頬を撫でる。
『うーん、やっぱり寒いなぁー』
ここも1月なのかなぁなどと頭の隅で思いつつ、その場に座りお庭を眺める。
綺麗に手入れされているお庭には小さな池があり、そこには数匹の鯉が水底でじっとしていた。
(わたしはいつ帰れるんだろう…)
そうぼんやり考えていると、近づいてくる気配に気付いた。
そちらを見ると、小芭内さんが立っていた。
『あ、小芭内さん』
わたしは小芭内さんに微笑む。
『自然が多いですね、ここは。わたしの時代にはこんなに自然はないですよ』
そう言うと、また外を見る。
現代では夜でも明るい。
ここでは、街灯もほぼないだろうから星空がよく見えるだろう。
『お茶をお持ちしました』
茶の間の方から椿姫さんの声が聞こえた。
『はーい、いま行きます』
わたしは立ち上がると、きっちり窓を閉めてから茶の間に戻った。
『うーん、お茶の良い香り!椿姫さん、お茶入れるの上手だね』
出されたお茶の匂いをかぎ、ひとくち啜る。
優しい味わいがした。
『え、そんなこと…』
椿姫さんは遠慮がちにそう言った。
『そんなことあるんだよー。椿姫さんは小芭内さんと付き合ってるの?そうなら、わたしたち好みが一緒だね』
わたしがそう言うと、なぜかふたりは目を見開き、しばらく固まっていたが慌て出した。
『えっ!そ、そんなこと…!!』
「俺が雪柳に好かれている?そんなはずっ!!」
思った反応と違うふたりは、お互いに顔を合わせた。
『ふふふっ…あははははっ…それはお互いに好きだって言っているようなものだよ』
わたしはふたりを見た。
ふたりの顔はみるみるうちに赤くなり、俯いた。
『こっちの小芭内さんは奥手なのね。未来の小芭内さんはぐいぐいくるのよ』
わたしは思い出したように笑う。
『ちゃんと気持ちを伝えなきゃ。どうなるか分からないんだから』
わたしはそう言うと静かに微笑む。