第3章 ※貴方がほしいもの、私がほしいもの※
そんなやり取りがあった数日後のこと。
黒死牟から基本的な囲碁のやり方を教えてもらったキリカは廊下を足早に歩いていた。向かう先は黒死牟の私室。囲碁の勝負を挑む為である。
「巌勝様、覚えて参りました。さあ、勝負致しましょう!」
よほど自信があるのか、キリカは「負けませんからね」と得意そうに肩をそびやかした。
「それはそれは・・・、楽しみな事だ・・・。ただ・・・」
みなまで言わず、黒死牟は言葉を切った。含みのある視線をキリカに向ける。
「勝負するだけでは面白味にかけるであろう・・・」
「・・・?」
「どうだ・・・、負けた者は勝った者の欲しいものを用意すると言うのは・・・?」
「欲しいものですか・・・?」
「そうだ・・・。何でもよいぞ・・・。簪でも着物でも・・・、お前の欲しいものをやろう・・・」
欲しいもの。そう言われたキリカの顔が、ぱっと輝いた。
(何が良いかしら・・・。着物はこの前、買っていただいたばかりだし・・・)
舶来の化粧品や香水。さまざまな物が脳裡に浮かんでは消えていく。
「本当ですか。私、負けませんからね!」
「ああ・・・。それは・・・、勇ましい限りだ・・・」
「一生懸命、覚えましたから。もちろん、手加減は不要ですよ」
「そうか・・・」
勢い込んだキリカに黒死牟は苦笑を禁じ得ない。喉の奥で微かに笑うと碁石を手にした。
「どちらが・・・、先手だ・・・?」
「巌勝様からどうぞ」
「分かった・・・、では、始めるぞ・・・」
かくして、二人の勝負が始まるのであった。