第3章 ※貴方がほしいもの、私がほしいもの※
ある晴れた日の昼下がりのこと。
「失礼致します。巌勝様、洗濯物が乾きましたのでお持ち致しました」
「ああ・・・、いつも助かる・・・。礼をいうぞ、キリカ・・・」
「いえいえ。では、失礼致します」
再度、断りを入れたキリカが部屋に足を踏み入れた。真昼だと言うのに全ての窓を締め切った部屋には僅かな灯りがあるのみ。
この部屋の、否、屋敷の主は几帳の向こうにいるようだ。たまに、ぱちん、ぱちんと音が聞こえる。
「こちらに置かせていただきますね・・・。あら、それは?」
一体、何の音だろうか。丁寧に畳まれた洗濯物を文机の上に置くと黒死牟に声を掛けた。
「これか・・・?囲碁だ・・・」
「囲碁、ですか?」
「ああ・・・。人であった時・・・、よくやったものだ・・・。たまにはと思って引っ張り出したのだが・・・」
黒死牟は視線を盤に向けたまま応えた。黒い碁石を何処に置こうか考えているようだ。
ぱちん。
短い俊巡の後、碁石を盤上に置いた。次の碁石を手にすると、今度は迷わずに盤上に置いた。
「ふむ・・・。やはり・・・、ひとりでは今一つ、興が乗らぬな・・・」
顎に手を当てると、小さく溜息をついた。
「あの・・・」
それまで静かに傍らに座していたキリカが口を開いた。
「私にも出来ますか・・・?」
「ああ・・・、出来ると思うが・・・」
「では、私にも教えてくださいますか?」
「それは構わぬが・・・、どうするつもりだ・・・?」
怪訝そうな視線を向けてくる黒死牟に、キリカは極めて朗らかに答えた。
「お一人では退屈なようでしたら、私がお相手をさせていただこうと思いまして。ただ、決まりなど分かりませんので教えていただければ、と」
言い終わると、にこりと微笑んだ。
「良かろう・・・、では、早速始めるとするか・・・」
「ありがとうございます。頑張って覚えますね!」