第6章 練習試合と彼女
上に着いたところで榛名が手を振っていた。
もうすぐ試合も始まるだろう。
「何話してたんだよ、森山と」
「靴紐危なかったから注意してただけ」
「じゃあなんでお前もしゃがんだ?」
「私、あっちむいてほいとかめちゃめちゃ弱いんだよね。
だから思わずしゃがんじゃっただけ」
試合開始のホイッスルが鳴る。
「…ほい」
「……早速試さないでくれる?」
「本当に弱いな」
指でさされた方向を思わず見てしまうほどには弱い。
まぁ上手いこと誤魔化せたということにしよう。
「榛名のせいで始ま…えっ」
「オイオイマジかよ…」
文句を言おうとした瞬間に何か嫌な音がした。
…ゴールがぶっ壊れてる。
「…ゴールっていくらすると思う?」
「しんねーけど…ま、これでウチとしては黄瀬君の投入と全面で試合ってことだわな」
全く面白いことをしてくれたわけだ。
急きょ体育館の半面から全面の使用となった。
ゴールが壊れた原因はボルトが錆びていたというのが判明した。
2人の仕事ぶりも観察しつつ程なくして試合も再開。
「なにこのハイペース…」
超高速で行われる点取り合戦。開始3分とは思えない。
「おいおい…これただの練習試合だぞ…」
開始5分で誠凛のタイムアウト。
スコアはウチが25で誠凛22。この予想だにしなかった結果にうちの監督も相当お怒りだ。
「ま、でも案外桜もちゃんと動けてるじゃん。今日の梓だってどちらかと言えば桜のフォローって感じだし」
「うん。試合の方は良い展開じゃないけどね」
良いというかウチにとっては面白くないと言えるだろう。
海常は一軍の調整試合のつもりだった。
場合によってはトリプルスコアだと予想もしていた。
しかし、だ。相手がゴールぶっ壊すなんてこと誰が予想したのか。
キセキの世代、黄瀬涼太の投入の予定も無かった。
うちにとってはイレギュラーばかりの試合運びだ。
「監督イラついてんなぁ」
「こっちにいて正解かもね」
「お、タイムアウト終わんぞ」
「うん」
試合が始まると思わず森山君を目で追っていた。
頑張れ、そう心の中でエールを送ると目が合った気がした。
まるで自分の気持ちが伝わったみたい。そんなことを思った。