第16章 想いを祝福にのせて
ここはパシオの運営事務局内にある会議室。テーブルを囲んで規則正しく並べられた椅子から、適当に席を選んで腰を下ろす。
静かな空間に、アナログ時計の秒針の音だけが響いている。
“観光客向けのイベント開催に向けて有志トレーナーを募りたい。そのために協力してほしい”
数日前、ライヤーからそんな話を聞いて、幼馴染で集まって相談しよう——そうリーフから連絡が来ていたはずだ。
だが、指定された時刻になっても、誰も現れない。
(どういうことだよ…)
小さく息を吐き、苛立ちを紛らわせるようにテーブルを指先でコツコツと叩く。
いくら気心の知れた幼馴染とはいえ、当日に全員揃って遅刻とかありえないだろ。
苛立ちの原因はもうひとつ。
べつに誕生日を派手に祝ってほしいわけじゃない。
それでも、当日に恋人から「おめでとう」のひと言すらチャットが来ないのは、さすがに味気なさすぎる。
ナナのそっけなさはサプライズの伏線で、会議室のドアを開ければ部屋は真っ暗、電気をつけた途端幼馴染たちが祝ってくれる——そんな展開を、心のどこかで期待していた自分が滑稽でならない。
半刻ほど経っただろうか。
痺れを切らして立ち上がる。もし過去のオレと会話できるなら、30分前の自分に言ってやりたい。「なにも期待するな」と。
トレーナーズサロンなら誰かしら知り合いがいるだろう。そう思い立ち、メンバーが揃うまでそこで時間を潰そうと会議室を出た。
トレーナーズサロンは運営事務局のすぐそばだ。仮に誰かと話し込んで遅れたって、30分も待たせているあいつらが悪い。そう開き直りながら、自動ドアの前に立つ。
だが、ドアが開いた瞬間、目に映る光景を思わず疑った。
「……おい、お前ら」
これはなんの悪い冗談だ?
胸の奥で、思考が黒く塗りつぶされていくのを、オレははっきりと感じた。