第15章 マジカルハロウィンナイト
オニオンくんは、ピンと立った髪の毛をそっと撫でた。手で押し込むと収まるのに、離すとまた古井戸に向かい逆立っている。
「この髪の毛は、ダウジングのようなものでして…」
「ダウジングって、落とし物とかを探すアレのこと?」
「はい、つまり、目に見えないものに反応する…ということです…」
「そ、それ、そそれっ…」
コホンと咳払いをして、仕切り直す。
「それってつまり、桶とか周りの植物はオニオンくんが動かしてるんじゃなく——」
私の声に被せて、桶や草木がひとりでにけたたましく揺れた。
「……アナタが面白いから、集まってきちゃったみたいです……」
瞬きも忘れ——石のように身体が硬直する。
「は、ははは…集まって…はははは…」
恐怖がキャパシティを超えると、どうやら笑ってしまうようだ。防衛本能なのかなんなのかわからないけど、気づけば壊れた人形のように張り付いた笑みを浮かべて立ち尽くしていた。
「ダメだよ…」
澄んだオニオンくんの声が夜の闇に響き渡る。
「もう…ナナさんを怖がらせないで?」
静かにそう言い放った瞬間、ピタリと音が止んだ。
「——ははは……って、あれ?」
我に返って周囲を見回す。風もなく、物音ひとつしない。
「もう…大丈夫です…」
妙に落ち着き払った声でボソリと言う。
大丈夫だとしても、確認せずにはいられない。
「……ねえ、今までのぜんぶ、おばけやしきの仕掛けだよね?演出であり演技だよね?嘘だよね?」
嘘だと言って、頼むから。
「…ナイショです…」
オニオンくんは、私の手を引いてゆっくり歩き始めた。
(ホンモノってこと…!?)
度重なる恐怖体験にこちらは気が気じゃない。
(オニオンくんって、一体何者なんだろう?)
胸の奥がざわめいて、オニオンくんの横顔を盗み見る。と、オニオンくんも私を見ていた。
「ッ!?」
恐怖で心が張り詰めているせいか、表情のない仮面がやけに不気味に目に映る。
「ナナさん…」
「……な、なあに?」
相手は子供、儚げな少年。怖くない、絶対に怖くない。だって私を守ってくれた。少し不思議なだけで、怖いことなんかなにひとつない、ないったらない。