第13章 帽子のトレーナー
「うん、帰ろう」
と返事をしたタイミングで、今度はレッドのチャット通知音が鳴った。
リザードンの背を撫でながら、レッドはポリゴンフォンを眺めている。
「…!」
やれやれといった様子で笑ってる。グリーンからなのか尋ねると愉快そうに頷いた。
「……!」
「グリーンが明日は4人で修行って?あはははっ!予約されちゃった!」
「ははっ!」
「リーフちゃんも神出鬼没だから、しっかり捕まえておかないとね」
ふたりで顔を見合わせて笑い合うと、不意にリーフちゃんの言葉が頭に浮かんだ。
「親友を傷つけたくない」——リーフちゃんはああ言っていたけど、私には昔から変わらない“いつも通り”のレッドに見える。幼馴染として、優しい兄のように接してくれているだけのように感じる。
ちょうどふたりきりだし、付き合っているのを知っているか確認する?いや、なんの脈絡もなしにいきなり聞くのは変だから、まずはグリーンからレッドに話したのか聞くのが手っ取り早い?
帰り支度を進めながら自問自答を繰り返していると、またグリーンから連絡がきた。
『迎えに行くか?』
「迎えに?…どうしようかな」
ここはセントラルシティに近いからわざわざ来なくてもいい気はするけど、流れでそのままご飯に行くのはありかも?
チャットを見てうーんとうなっているとレッドが近づいてくる。そしてポリゴンフォンを持つ手を掴まれ、そっと下ろされた。
「……」
「しつこいからって?」
今度はレッドがむすっとしてる。
「…ぼくが送る」
「レッド…?」
そのまま手を引かれ、リザードンの側へ。
「帰ろう」
「う、うん…」
結局、なにもかも不確かなままレッドと一緒にセントラルシティに戻り、その後はグリーンも合流して3人で夕飯を共にした。
「いつも通り」に、ほんの少しの変化を感じたことは誰にも言えなかった。