第12章 ※熱帯夜
「ど、同棲するにあたり、オーキド家のみなさまにご挨拶を…」
「なに急にかしこまってんだよ」
私の夢がさっそくゲラゲラ笑われた。
「つまり、オレといるのが夢って?かわいいこと言うじゃん」
誤魔化すつもりがほとんどバレてしまっている。
「同棲したら、今よりもっと一緒にいられるな」
「でも、私のこと飽きたりしない?毎日一緒だと…」
ふたりが大人になって何年も一緒に過ごし、いつか恋の熱が冷めてしまったら?
そんな後ろ向きな想像をするだけに留まらず、こうしてグリーンに確かめてしまうのは、きっと私の甘えなんだろう。
めんどくさいこと聞いちゃったなと後悔していると、耳元でグリーンのため息がした。
「今さらなに言ってんだよ。飽きる飽きないのレベルじゃねーだろ。ガキの頃からずっとなんだから」
「ずっと一緒にはいなかったよ?先にグリーンは旅立っちゃったし、パシオで再会したのも数年ぶりだし」
「ずっとってのはさ……」
抱きしめられた腕の力が強まる。
「……あの頃からオレはなんにも変わっちゃいない。ガキの頃から、このオレ様が、せかいでいちばんナナを……」
何かを言いかけてから、思い詰めたように口をつぐむ。そして、消え入りそうな声で呟いた。
「なのに、なんで……お前は……」
「グリーン?」
振り返ると、何事もなかったように淡々とした声で聞いてきた。
「……そういえば、浴衣は洗わなくていいのかよ?」
「え?続きは?」
「やめた」
「聞きたかったのに」
「ただのつまんねーむかしばなしだよ」
「ね、話して?」
「いつかそのうちな」
「えーっ」
おでこをコツンと合わせて笑い合う。
そうして、長く熱い夜は更けていくのだった。