第11章 お祭り騒動
視線を前方へ向けると、グリーンが腕組みをしながら苛立ちを隠しきれない顔をして立っていた。かなり機嫌が悪そうだ。
「グリーン!今ちょうど戻ろうと思ってたとこ」
「なんですぐ連絡をよこさなかった?」
鋭い双眸が私たちを捕らえる。
ごめんと言いかけて、シルバーくんが会話に割って入った。
「さっさと連れてけよ。こいつが足痛めたから休ませてたんだ」
グリーンが私の足に視線を落とす。鼻緒が擦れて赤くなった患部を見やり、険しい顔つきを崩さぬまま目を細めた。
「足がそんなになるほど、そのかんざしが大事らしい」
シルバーくんの言葉に、グリーンは返事の代わりにため息をついた。
「リーフに聞いた。見つかってよかったな」
「うん…」
「行こうぜ」
頷いて縁台から立ち上がる。ニューラはもう私を引き止めなかった。
横からシルバーくんが躊躇いがちに口を開く。
「…ニューラの件、悪かった。こいつを巻き込んだことも」
ニューラは悪びれる様子もなく、シルバーくんに寄り添うように座っている。
「気にすんな」
グリーンは責めるでも庇うでもなく、それ以上なにも答えない。
「……すまない」
俯いたままのシルバーくんに、グリーンは少し声を和らげて返す。
「ヒビキがお前のこと探してたぜ?お前もそろそろ戻ったらどうだ?」
「いい、オレはもう少しここにいる。ニューラがここを気に入ったみたいだしな」
「そうか、じゃあな」
グリーンが私の手を引く。そしてすぐに思い出したように立ち止まった。
「足辛いよな?おんぶするか?」
「休んだら痛み引いたから大丈夫」
「ほんとかよ」
「下駄を浅めに履いて歩けばなんとかなりそう」
「どんなテクニックだよ、それ」
ほんの微かだけど、ようやくグリーンに笑顔が戻る。
振り返ってシルバーくんとニューラに挨拶をしたけれど、俯く彼にはもう届かない。
庭園の出口でもう一度振り返り手を振る。けれど、夜の闇がシルバーくんを隠してしまった。