第29章 《閑話》とあるアイドルプロデューサーの休日
【side クラブ通いの女の子】
ここは、東京でも指折りのナイトクラブ。
“ WALP ”
毎夜毎夜、若い男女が集い楽しそうに歌って踊る。まさに、若者の聖地とでもいった所だろうか。
例に漏れる事なく、私も金曜日の夜は決まってここを訪れていた。
しかし私は、この場所が…あまり好きではない。
「今のDJ、結構良くなかった?イケメーンって感じで!
ねぇ、聞いてる!?」
彼女は、私の友達。
いや。その言い方は正しくない。
だって彼女は、私をただの “ 引き立て役 ” としか思ってないから。
そんな彼女が、私は嫌い。
でも、一人ぼっちでいるよりはマシだと。言いたい事も言わないで、なすがままになっている私が、一番嫌い。
「あ、うん!ごめんね、聞いてるよ。あはは、うん。ほんとほんと!イケメーン…」
彼女は、顔も可愛いしスタイルも良い。さらに服のセンスも良くて…。だから当然、凄くモテる。
対する私は、地味な顔を長い前髪と眼鏡で 必死に隠す。スタイルにも自信が無いから、体のラインが出ないようにゆったりとした服を身に纏う。
どうして 同じ女で、こうも違うのだろうか。
神様は、意地悪だ。
私は今日も、眩し過ぎるクラブの照明から逃げるように、影になる。
こんな私を、誰も見ないで。誰も私の存在に気付かないで。どうか、こんな私を 誰も見つけないで。