第3章 今の寝言は、特別に…聞かなかった事にしてあげる
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『おはようございます』
「おう。今日も早いな」
私がレッスンルームで待ち構えていると、楽がやって来た。
今日レッスンで取れる時間は、午前中のみだ。午後になれば彼らは出てしまう。
私はその間、広報担当との打ち合わせ。
『マッサージするので、足貸して下さい』
「あんた、そんな事までするのか…」
『まぁ。どこが一番辛いですか?』
「…そうだな。強いて言えば 脹ら脛…か」
楽はそう言って、椅子に座ったまま私に足を預ける。
筋肉質な脹ら脛を目の当たりにして、若干テンションが上がってしまった事を必死に押し隠し。私は手のひらでマッサージを始める。
「……昨日、天と話出来たのか?」
『よくご存知ですね。なんとか練習は控えてもらえましたよ』
「あの頑固な天を?すげぇな…あんた、どんな手使ったんだよ」
“ なけ無しの自分の情報と引き換えにして ”
などとは、口が裂けても言うまい。これ以上 あの話を広めたくはない。
『…企業秘密です』
「またそれか。ミステリアスが過ぎる男はモテないぜ」
『秘密の無い男の何が面白いですか』
ガチャリと扉が開かれる。次に入って来たのは龍之介だった。
「おはよう2人とも。何の話?」俺も混ぜて
「モテる男の条件」
『そんな話でしたか?九条さんの話でしょう』
「天? そういえばさっき事務所で、珍しくパソコン触ってたな…何か調べてる様子だったよ」
…天がパソコンで調べ物。
嫌な予感しか、しないなぁ…。
おまけ
「………」
「あら天。何してるの?検索…?
“ イケメン_アイドル_引退 ” …って、何これ」
「…べつに。ただ、ちょっと気になる事があったので」
(…知り合いの話…。なんていうのは、大抵が本人の事だと思っていたけど。ボクの気のせいかな…)
「どうでも良いけど、この検索履歴 IQ低そうねぇ」
「……ボクはもう行きます。レッスンがありますから。では、また後で」
「はいはーい。お疲れさまぁ」
(……エリの事を、天がイケメンって認識してる辺りが最高に面白いわぁ。笑いを我慢出来た自分を褒めてあげたい)