第116章 心、重ねて
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それぞれ2曲ずつを歌い終えたIDOLiSH7とŹOOĻは、衣装チェンジ中だ。ステージ袖では まだ舞台に立っていないTRIGGER、私とスタッフ達だけが取り残されたように佇む。
しかし、その瞬間は刻一刻とやってくる。
「プロデューサー」
『はい』
「ボクは、キミの言葉がなくても100点のパフォーマンスをする自信がある」
『ですよね』
「でも……エリからの激励が貰えたら、120点のステージを作り上げられるかも」
天の甘い誘い言葉に、私の口角は無意識に上がってしまう。彼にここまで言われては、想いを言葉にしないわけにはいかなかった。
『天』
「はい」
『楽』
「おう」
『龍』
「うん」
3人の名を呼び、顔を順に正面から見据える。
本番直前に彼らへ贈る言葉なんて、十分に考えて用意していたはずなのに。いざ口にしようとすると、上手く出て来てくれない。私は声がつかえる喉に指をやって、なんとかそれを外に出そうと試みた。
『私、は…今から…凄く、勝手を言います』
あれ?おかしい。
こんな事を、言うつもりなど、なかったのに。
これから大切な瞬間を迎える彼らに、言って良い言葉ではないと分かっているのに。
止められない。私はなんて、身勝手な人間なのだろう。
『私の代わりに…夢を、叶えて。
歌で、人を幸せにする。観る人全てを、救ってしまえるようなそんなステージを…TRIGGERが、作って』
お願い。
それは、私には出来なかったこと。
お願い。
私の成し得なかった夢を、どうか。
涙を堪えて俯く私の手を、天が優しく取った。そして震える指先にそっと、ある物を乗せる。
「ボク達だけ、まだキミに何も贈っていなかったから」
『え、これは』
「天。龍。もう出番だ。
いくぜ。こいつに、これまでで最高のステージを観せてやる」
『楽…』
天と楽は、順に私の肩に優しく触れてからステージに向かった。
「春人くん。観ようね、一緒に。最高の景色を」
龍之介は私には触れず、柔らかで温かい笑顔を残して歩き出す。私は頷き、その背中を見送った。
そして、さきほど天から手渡された包みを確認する。これは私にだけ内緒で、来場者全員に配られたのと同じ物。その黒い包みの中身は…
『…これは、リング ライト?』