第12章 会いたい。死ぬほど
「そういえば…」
酔いが回って来たのか ほんのり赤い顔で、楽は私を見る。
「お前、Lioにちょっと似てるよな。特に声とか…顔も」
『…八乙女さん、酔ってます?』
私は動揺を隠すように、ワイングラスの中身を一気に飲み干した。
「酔ってるかって…そりゃ、酔ってる。
俺は2年前から、ずっと酔ってんだよ」
苦しい想いを吐露するかのように言った楽は、額に手をあて、ぎゅっと目をつむっていた。
そして気持ちを切り替えるかのように、ふっと息を吐いてから また言葉を紡ぐ。
「…どうしたって見つからねぇんだよ。MAKAに聞いても。マスターに聞いても。親父のコネ使っても」
それはそうだろう。MAKAには、私がLioである事は 絶対に言うなと口止めしてある。それは別に楽に限った事ではない。何人たりともだ。
マスターには、口止めする必要すらない。彼が人のプライベートを漏らす事は絶対に無いからだ。何故なら、一流のバーテンダーだから。
「今でもたまに、全部…夢だったんじゃねぇかって思う。
MAKAの楽屋で、俺に毒付いてきたあいつも。ここの地下で歌ってたあいつも…」
『そんなに…会いたいんですか?彼女に』
聞いてしまってから、後悔した。
楽が、私に向けた瞳が あまりにも綺麗だったから。
「会いたい。死ぬほど」
ぎゅっと、心臓が掴まれた心地だった。とても胸が痛いから、私は咄嗟に彼から目を逸らした。
『…いつか、会えれば良いですね』
いや。そんな未来は絶対にやって来ない。
貴方が会いたいと願えば願うほど、その分 私は貴方から遠ざかるから。