第69章 お前さんのデート相手はここで待ってますよー
「はいよ。じゃあ500円のお釣りね」
『え、お釣りは450円じゃ…』
タクシーの運転手から受け取った500円玉から顔を上げ、彼を見つめる。男はニコニコと人の良い笑顔を浮かべていた。
「お嬢さん、綺麗だからおまけね!いやぁ…やっぱり着物っていいなぁって、おじさん癒されちゃったよ」
『はは…恐縮です。ありがとうございます』
着物のおかげで、50円儲かってしまった。値段以上に得した気持ちで、私はタクシーから降車する。
大御所の自宅へ赴くとあって、かなり緊張していたのだが。おじさんの褒め言葉で、心がほぐれたような気がする。
なんだか、このままトラブルもなく今日という日を過ごせそうな気さえして来……
「「………」」
「おーい。お前さんのデート相手はここで待ってますよー」
私は、閉じかけていたタクシーのドアを再度こじ開ける。そして再びシートに座って頭を抱えた。
え?どういうこと?今、絶対いた。
手招きする大和は置いておいて、ここにいるはずのない人間 約2名が絶対いた!!めちゃくちゃこっち見てた!
いくら頭をフル回転させても、思考が追いついて来ない。
どうしたの?忘れ物かい?と言う運転手に返事をする余裕もない。
「ちょっと何やってんの。んなとこで固まってたら、おじさんの迷惑でしょうが。どうもすみませんね」
抵抗もむなしく 大和に腕を掴まれ、ずるりと外に連れ出されてしまう。
パニック状態の私に対し、大和は呑気に まじまじとこちらを愛でる。
「……いや、うん。いいな。エリ、きれ」
「びっくりした…!エリの着物姿初めて見たから…
すごく綺麗だね」
大和の言葉は、龍之介の賞賛の声でかき消された。