第1章 もしかしなくても、これって脅迫ってヤツですか?
「ちょっとあのねぇ…不本意なのは分かるけど、あの人は今のアンタの社長よ?
雇い主よ雇い主!もう少し適当な態度ってものがあるでしょ!」
そんな お小言を言う為に、わざわざ追いかけて来たのか彼は…。
『…私の就労スタートは明日。そう誓約書にも書いてあったでしょう。
つまり、現段階ではまだ八乙女プロと契約関係に無いので』
従って、あの人は私の社長じゃないのだ。まだ。
「ま、アンタちゃっかりしてるわねぇ」
私は支給されたばかりの、男物の時計に目を落とす。
するとちょうどその時、短針が深夜の12時を指した。
『姉鷺先輩。若輩者ではありますが。どうぞこれから、ご指導ご鞭撻のほど…よろしくお願い致しますね』にこー
「………なにかしら、だんだんアナタの事が好きになってきてる自分が怖いんだけど」
借りた社用車で、無事に帰宅した私は
すぐさまベットへダイブした。
あぁ、化粧を落とさないと…。ウィッグも取りたいスーツ脱ぎたい…。
このままお風呂も入らず落ちるわけにはいかない。
そうだ、前社長に電話もかけたい…。
もう大丈夫ですよって。八乙女事務所に貴方が脅される事は、無くなりましたから 安心して下さいって…。
私は重たくなってきた瞼をなんとか持ち上げて、デスクに置いてある写真立てを見上げる。
そこには、ミクの写真が飾られていた。
『…ミク…、私がいなくなっても…頑張ってアイドル続けてね。
私みたいに…ならないで…』
私の意識は、そのまま深い底の底へ沈んでいった。