第67章 左手は添えるだけ
もうすぐ、後半戦が始まろうとしていた。フットサルの専門知識がない私でも、もう負けがない事は分かる。
とにかく、レベルが違う。私というお荷物を背負っていながらも、3人は余裕で点を獲得出来る。
相手が、ボールを持ってゴールに近付く事がないので、加藤のレベルは分からないが。
三月も龍之介も凄いのだが、やはり百のプレイは一線を画していた。その動きを見れば、本気でプロを目指していた事が窺える。
なんて考えていたら、また涙腺が緩みかけた。
「……もう泣かないで下さいよ」
『泣きません……!』
「力一杯 泣くの我慢してるじゃないですか!可愛い人だな!」
『え』
「な、何でもありませんよ。もうすぐ後半が始まります。その前に、私がここから見ていて感じた事を話しておきます。
まず、兄さん。
俊敏な動きで相手を翻弄するのは良い手ですが、時折 過剰な場面が見られます。無理に突っ込んで怪我でもしたら元も子もないので気を付けて下さい。
次に十さん。
ドリブルもシュートも素晴らしいコントロールです。しかし、自信がないのか少しタイミングが遅れる節があるような気がします。もし次に迷ったら、思い切って仕掛けてみても良いかもしれません。
最後に百さん。
正直、あまり言う事はありませんが…フォローするだけではなくフォローされる場面を増やせれば、もしかすると更なる追加点が見込めるかもしれませんよ」
一織のアドバイスに、3人はしっかりと頷いた。
サッカーの経験がほとんどないにも関わらず、この洞察力。秀才は、何をやらせてもすぐ能力を発揮するから恐ろしい。
そんな彼が、最後に神妙な面持ちで呟く。
「これは…私の勘も多分に含まれる考えなのですが。
大人し過ぎると、思いませんか。あれだけ啖呵を切っていたのに、この点差で負けているんです。きっと今、彼らの腹の中は煮え繰り返っているはず。
そういう相手は、どんな手段を取ってくるか予想できません。
用心を」