第8章 なんだか卑猥で良いね
「良い話だったね」
「お、おお?良い話…だったか?」
「王子も、真実の愛を見つけられたら良いな」
「…いや、眠り姫ってこんな話じゃないだろ。たしか」
舞台袖へと駆け込んだ私と天。互いに視線を合わせる事なく、背中を合わせ、ズルズルとその場に座り込んだ。
私達は疲労困憊。破茶滅茶も良いところだった眠り姫だったが、意外にも客には受けたようだった。
これは後日談だが、監督曰く 近年稀に見る大反響だったという。
とにかく、これで私と天の役目は終わった。
私がキスをしてしまったお姫様には 丁重に謝罪をして、TRIGGERメンバーと共に控え室へと帰る。
「何がどうなってあんな事になったんだよ」
「あの内容は台本通りだったのか?」
私と天は、もはや答える気力が残っていなかった。
私達の隣をすれ違って行く女性達が口々に、白王子。とか、黒王子。とか 頬を染めながら 謎の単語を呟いている。
『…まぁなんにしても、素晴らしいアドリブでしたよ。白王子』
「まぁね。キミが姫を最後に掻っ攫った時は、本当に血の気が引いたよ。黒王子」
『…ふ、ふふ…』
「はは…」
そんな嫌味の応酬を見て、楽と龍之介は満足そうに言う。
「あはは!なんだか2人が仲良くなったみたいで良かった。俺は嬉しいよ!」
「だからお前はオカンかよって」
ちなみに、この後のステージだが。
さすがのプロ意識の高い天。即興劇の消耗など微塵も見せず、最高のパフォーマンスで、TRIGGERのステージを大成功に導いたのだった。