第1章 鈍感フレンドシップ
「ちょっと待て、誰がベッドを貸すと言った?床で寝ろ、若しくは談話室のソファーで寝ろ」
「だってあのソファー、スプリングが壊れてて痛てぇんだもん」
「このベッドなら十分広いから、3人で寝ても余裕だろう?」
「3人じゃないんだゾ、オレ様もいるから4人なんだゾ!」
元の世界の男友達であるハリーとロンだって、ここまで図々しくはなかった。
まあグリムは枕元で丸まってくれればそれで良いが、エースとデュースは違う。何が違うって図体の大きさが違う。
がベッドから蹴り飛ばしてやろうかと思ったその時、不意にエースがこんな事を言った。
「なあ、もし決闘で負けたら、俺マジでここに住んでも良い?」
その言葉も声も、なんだかいつものエースらしくなかった。
エースのことだから「ぜってー勝って土下座させてやる」くらい言うと思っていたのだが。
ちょっと弱気なエースに感化されたのか、デュースまでこんな事を言い出した。
「このオンボロ寮に4人一緒に、か。それも悪くないかもな」
「……2人とも、今から負けることを考えてどうするんだ?」
「もしも、だよ。も・し・も」
もしも……もしも決闘で負けたら、毎日喧嘩しながら騒がしく過ごすのだろうか。
その様子を想像して、はちょっと笑ってしまった。
「まあ、考えてやらなくもなくもない」
「んだよそれ、結局どっちだよ」
「どっちでも良いだろう?明日は絶対に勝つんだから」
「は、僕達が勝つって信じてるのか?」
あのリドル寮長に真っ向から挑んだら、きっと勝てる可能性なんて1%にも満たないだろう。
だけど、エースとデュースなら、きっと何か凄いことをしてくれるんじゃないかという期待がにはあった。
「ああ、必ず勝つさ。だから変な心配せずにもう寝ろ」
そう言っては目を閉じた。
それから暫くして、は静かに寝息を立て始めた。
を挟むようにしてベッドに寝転がっていたエースとデュースは、その寝息を聞いて小さく囁いた。
「コイツ、マジで寝やがったぞ」
「警戒心が無さ過ぎるのも考えものだな」
年頃の男の子であるエースとデュースの心中を全く理解していないは、グリムと一緒に幸せな眠りにつき、翌朝清々しい朝を迎えるのだった。