第2章 センラ
そう言って、彼はまた私から逃げるように視線を外した。顔を背けてしまおうとするこの人を繋ぎ止めたくて、必死に彼に抱きついた。
正面から思いきり。抱きしめて。裸の胸元に顔を埋める。呼吸で僅かに揺れる胸もと。熱いくらいのその皮膚に頬をこすりつけると、私の髪も肌にかさって、くすぐったそうにセンラさんは揺れた。
時折り、ふとみせる彼の繊細な部分。それは、一つ、誤った言葉を発せばすぐに離れて、もう二度と姿をみせてはくれないような気がした。
自分の言葉で彼が傷付かないように。嫌な思いをしないように。ちゃんと自分の伝えたい感情が、この人に伝わりますように。そう、願いながら気持ちを言葉にした。
「古臭いとも、偏見だとも思わないです。センラさんってなんていうか…。えぇっとぉ…。し…紳士的、ですね?」
思ったそばから盛大に。言葉選びを間違えた気がした。
自分の語彙力の無さがおそろしい。
こわごわと上を見上げる。目があった瞬間に、誤魔化すようにヘラっと笑ってみせた。
すると、すかさず私の両頬をセンラさんの長い指が摘む。
「はぁ?なんなんそのあほヅラ。バカにしとるん?」
「ひぃッ!ひてないれふ!」
摘んだ指が離されて、頬をさすりながら答える。
「そんな考えのセンラさんが、大好きです!」
きっと、この人に言っても糠に釘だろうが。自暴自棄で発したその言葉に、反応するかのように彼の手がもう一度私の頬にふれた。今度は優しく、なでるように指が頬をくすぐる。
「そうやって、アホの一つ覚えみたいに好き好きいうとったらご機嫌とれるとおもてんのやろ」
「お、思ってないです!好きだなって感じた時に伝えてるだけです!」
どんどん至近距離になってくるセンラさんに気圧されて少しずつ後退りをする。両頬を彼の大きな手で包み込まれた。
一定の方向に強制的に向かされて。顔面の身動きがとれない。そのまま彼の唇が落ちてきた。
不機嫌な声色に反するように彼のキスは優しい。とろけるような、甘いキス。厚ぼったい唇に包まれてその柔らかさに惚けていれば、何も身につけていない膣の先にぬるりとしたモノが当たった。