第2章 センラ
荒い息づかいで少しだけ苦しそうにセンラさんが独り言を呟く。私から距離をとったと思えば、ベッドの横に置いてあった小さなレジ袋を取り出した。中から出てきたのはポッキーなどのお菓子が入ってそうな長方形の紙箱。しかし、デザインがやけにきらびやかだ。箱に巻きついたフィルムを開けると見知ったモノが出てきた。
「センラさん、それゴムですか?」
「うん。コンドームさん」
なぜコンドームにさんをつけたのか分からなかったが、とりあえずスルーして話を続けた。
「事務所の指示でピルもらっているので生でも平気ですが…」
おおっぴらに言っているわけではないが、ここは生本番をさせる人が少なくない。というか、比較的多いのが現状だ。
それはやはり、一人の嬢につく利用者人数の少なさゆえ、性病をうつされたとしても次の利用者を請け負うまでに対応できるという利点。
そして、意外と知られてはいないが避妊失敗率がピルの方が低いということからだった。
ピルを飲んでいるのだったらゴムは必要ない。その方がお互いに気持ちよくなれるし。そう思うのが通常の男性の考え方なのではないだろうか?
しかし、私の言葉を聞いた彼の反応は真逆のものだった。腐敗した生ゴミでもみるかのように、嫌そうな表情を私に向ける。
「俺は無理やな」
そこから次の台詞が出てくるまでに多少時間がかかった。真剣な眼差しで目を伏せる姿は、慎重に言葉を選んで紡ごうとしているように思えた。
「セックスってな。女性にばっかり負担、かかるやん?はじめては痛いいうし、濡れが少ないとやっぱり痛みがあるらしいし。避妊だって、そうやってなんで女性だけ気を使うん?できて産むんも下ろすんも痛い思いするのは女性だけ。そんなん、不平等やなって思わん?男ばっかりえぇ思いして、卑怯やろ」
普段よりもずっと落ち着いた声色。なのにどこか優しい。諭すように、彼は話す。
「男がゴム一つするだけで済む話なんに、なんで女の子の体に薬流すようなことせなあかんの?って思うんよ。そら、わかっとるよ?ピルかて医者が処方してくれたものやし体に毒やないってことは。俺のこの考え方事態が偏見で古臭いってことも。わかっとるけど。俺は、嫌なんよ…」