第2章 センラ
「今度のお客様は少し、気をつけて」
これまでとは違う、雲行きの怪しげな上司の言葉に今までにない不安と緊張が沸き立つ。
いつもの倍以上ある利用者情報ファイルの厚みがやけに重く感じた。
ここ、家政婦紹介所その名も『pro』
こちらで家政婦として働くようになってから半年。私はまだ日勤しか経験がない。
日勤、というのはここでは通常の家政婦の仕事を意味している。
通常の家政婦の仕事以外に何があるのかと聞かれれば、それはこの職場の名が体を表しているのではないか?
『pro』とは一見professional(専門職)の短縮形と思われがちだが実は違う。この店でのproとはprostitute、つまり売春婦の意味を示しているのだ。
ここでの家政婦は主に、日勤(通常の家政婦業務)にプラスして夜勤(性サービス)を希望されるお客様も相手にしている。
「苦情の多い方なのですか?」
「いや、苦情とかは一度もないよ」
それならばどうして?
そんな疑問を投げかけようとすれば、上司の深いため息がそれを遮った。
「指名をね、中々してくれないお客様でね。みんな一度きり。次利用する時は必ず違う家政婦を希望するんだよ。ここはいうなれば高級ソープのようなところだからね。なるべく指名をして固定客となってほしいし、実際長く使ってくれているお客様はみんなその方法で利用してくださっている」
指名をしてもらえる事は嬢側にとってはとてもありがたいことだ。定期的に自分を利用してもらえる安定感。複数の人と行為をする必要がほとんどなくなる安堵感。体の負担も少なくなるし、なによりこの仕事特有の精神面で不安定になる確率が少なくなる。