第22章 月と馬
7月31日(火)
学食で並んでる。
配膳当番の穂波が傍目にもわかるほどにご機嫌だ。
「…穂波、おはよう」
『研磨くんっ!ご飯いつもの量?』
「…ん」
『研磨くん、研磨くん。今朝、会っちゃった!』
「…?」
『馬に、会っちゃった!』
「あぁ… よかったね。またゆっくり聞かせて」
『うん!』
森然高校には馬術部もあるらしく、
穂波はそれを知って以来しきりに馬を探してた。
森然の監督や保護者、部員に聞いたりして。
でも、馬小屋は少し離れたところにあるらしくて、
なかなか朝の散歩してるとこに出会えなかったらしいんだけど。
相当嬉しそう。
これ、穂波にこういう顔させれるのは、
人じゃない。自然とか、動物だ。
「…なぁ、研磨。穂波ちゃんどうした?
研磨の隣にいるときの顔ずっとしてるけど」
「…え?」
「いや、あの顔。休み明けとか、旅行明けとか、普通に平日の学校でも、
少し前まで普通に会ってたのに会いたくてしょうがなかったとか言ってる時の顔じゃん」
「…え」
「あれ大丈夫なの?」
「…あぁ、うん。 馬。」
「馬?」
「うん、会いたかった馬にやっと会えたんだって」
「会いたかった馬…? え、それ比喩? エロ?」
「………」
「その、顔。 あーあれか、馬術部? たしかに穂波ちゃん好きそうだな。
なるほど、謎が解けたらホッとしたわ。 何事かと思った」
「…ねぇ、クロ」
「ん?」
「あの顔、他に見たことある?」
「…あんまねぇな。 あー、あとあれじゃね、海帰りのとき。
海どうだった?って聞くと大抵あの顔するよな。
まぁ、俺にはあれは研磨の隣にいる時の顔だわ。それが一番多くみてるシチュエーションだからな」
「………」
「何、研磨どうした?」
「…いや、なんでもない」
クロが言ってる、おれに会いたかったって言ってる時の顔はわかる。
ほんっと、可愛いから。
でもそれが、おれに向けられてないときの、
こういう馬とか海とか風のこと考えてるっていうか
思い出してる?時の顔と一緒だなんて思いもしなかった。
…うわ、なにこれ。
じわじわくるんだけど。
…うれし