第19章 みかん
ー赤葦sideー
「ぉあっ! 穂波ちゃんの連絡先、聞くの忘れちゃった」
帰りのバスの中で木兎さんが叫ぶ。
「…まぁ、またすぐに会えますし」
「まーそうだな。 …教えてくれるかなぁー」
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『あっそうだ。 京治くん、これ、はい』
わかれぎわ、
穂波ちゃんに手渡されたのは一枚のポストカード。
『京治くんに選んでもらった本のしおりにしてたから、
ちょっと周りが擦れちゃってるけど… 再会の印てきな?
よければ、受け取ってください』
丸の内で会った時に一緒にみた展示のものだ。
花咲く富士、という作品。
鮮やかな赤に目が行きがちだが、
白と青で織りなされた富士の頭の方の色使いに心惹かれた。
前面に咲く枝垂れ桜もまた、鮮烈な赤とのコンストラストが対照的で印象深かった。
「あぁ、うん。喜んで。 嬉しいよ」
ついでに連絡先でも書いてもらおうか、
そんな考えも過ぎったが、やめた。
なんだろうこの、深々と俺の中に積もっていく感じは。
穂波ちゃんの発する一言や表情が、
俺の中に静かに積もっていく。
それでしばらく、満たされるような気がした。
それに連絡先を聞かずとも、
会える時は会えるのだと、
今回身をもって体験した。
今回が異例なだけだったかもしれないが…
次会えるのは月末、森然で。
浮かれてる場合ではないが、楽しみだ。