第17章 GW
「…穂波〜」
『…ん?』
「宮城行く前におれに非常食つくって」
『あ、うん。いいよ。休み入る前日に持ってくるね』
「…ん」
『…あれ、遠征いつからだっけ?』
「3日の朝」
『…そっか。じゃあ、今日作って明日一回持ってくる』
「…?」
『遠征にもあるといいもんね』
遠征の日を聞いて持ってくる日を伸ばすんじゃなくて
なんで早めたのかよくわかんなかったんだけど、
リビングの机に置いてある小包をみて、理解した。
中にはいつものドライフルーツとナッツの丸めたやつと、
しょっぱいクラッカーが入ってた。
あと、穂波がつくったものじゃないけど、
宮城のりんごを乾かしたやつ。
それから葉書。
美術館で一緒にみたシニャックの絵の葉書だった。
おれが一番すきだった、the pink cloudっていう絵。
大きな雲と、その下に広がる水面、そこに浮かぶヨット。
構図もだけど、色使いが綺麗で、幻想的で、
現実とファンタジーの狭間にいるような感じがする絵だ。
この絵がすきだと話した記憶はない。
穂波がシニャックが好きだったと言って、
おれも好きだったと答えたくらいだったと思う。
偶然なのかもしれないし、
おれが絵をみてるときの反応を見てたのかもしれない。
…そう思うのは、おれも美術館では絵をみつつも、
絵をみてる穂波の表情や声色を聞くのが楽しかったから。
だからもしかしたら、そういうこともあるかもって思ったり。
…なんであれ、嬉しい。
そんなわけで、クロに何も買わないのか?って聞かれたけど、
おれの鞄にはサッと食べれるちょうどいい味付けの非常食が備わってる。
だから何も買わないでいい。