第38章 シロワニ
ー研磨sideー
2月3週目。土曜。
一日練習のあと、穂波ん家。
心さんとシゲさんと一緒に夕飯をご馳走になる。
「わ。魚介尽くし」
刺身(ブリ、金目鯛、ヒラメ)、ホタテと玉ねぎのマリネ、牡蠣フライ
椎茸と厚揚げの煮物、海藻サラダ、白菜漬け、鰤のあら汁。
「友達がいっぱい持ってきてくれたのー 釣ったのと、市場で買ったのと」
「へぇ… すご」
金目鯛、うまそ…
『研磨くん、目がキラキラしてる。猫みたい』
「…え、そんな、してないし」
『わさび擦る?』
「あ、うん。 お願い」
擦ったわさび美味しい。
ツーンとする感じが乱暴じゃない。
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「あー美味しかった。 ごちそうさまです」
それから初めて、シゲさんと洗い物をした。
穂波と心さんはストーブの前できゃっきゃ言いながらなんか話してる。
…仲良いな、ほんとに。
心さんは何かを編みながら。
穂波は特に何もしてないけど、
時折ストーブの上に乗った鍋をチェックしてる。
大豆を煮てるって言ってた。
いつも2月に味噌を仕込むんだって。
「研磨くん、最近どう?」
「…え」
えっと、最近…
「普通、かな…」
「そっか、普通か。 それは、いいな」
「うん」
「僕はそうだな… 僕も普通だな」
「…ふ」
いいな、やっぱ。
他愛無い会話も苦じゃない。
何か良いこと言おうとかしてこないし。
でもたまにお腹の底に落ちてくるような一言を、
シゲさんは言ったりする。
「でもおれの普通は、穂波と出会ってからすごいレベル上げされた」
「うん」
「でもそのレベル上げは、条件が揃わないとまた下がっちゃうやつじゃなくて。
負けたら下がるやつでもなくて」
「………」
「どこにでもあるなーって感じ」
「…?」
「穂波がいなくても、穂波がいるみたいな」
「………」
「ごめん、ちょっとよくわかんない」
「ははっ 笑 研磨くんでもそういうことあるんだな。
僕はそれ、しょっちゅうやってるよ」
低く穏やかなトーンで
目尻に優しい皺を寄せてシゲさんが笑った