第36章 たぬき
「前穂波がそんなこと言ってたから」
「…へぇ」
「確かに、って思った」
「ふーん」
「あんなの家にいたら」
「………」
「おもしろくて2人の世界の中心は確実にそこになりそう」
「………」
「………」
「何言ってんのお前」
「………」
「かわいいかよ」
「………」
「研磨、萌ちゃんの作品みたことないか、そういえば。
今日もアトリエ行きそびれたな」
「作品?」
「萌ちゃんは、版画作家。 すっげーかっこいいよ、萌ちゃんの版画」
「…へぇ」
「今はちょっとペースダウンしてるみたいだけど」
「…え、でも文化人類学って」
「あぁうん、そうだけど、多分どっちもライフワークみたいな。
文化人類学の方もあれだからな、どこでもできるっちゃできるからな」
「………」
「でさ、中心はなんなんだろうな。やっぱ自分なんじゃね?
小さいうちはハルが中心の生活にはなるかもしれんけど、
世界の中心はそれぞれやっぱ自分なんじゃねーかなーと思うけどね」
「…たしかに。 そっか」
そっちの方がいいな。
さっき寝たし、帰りの車はずっと起きてられた。
家の前まで送ってくれて、
いつの間にか買ってたアキくんの友達の店の焼き菓子と、
いただきもののお酒を渡された。
母さんたちにわたしてって。
そしたら母さんも父さんも出てきて、
隣の家からクロまで出てきて
少しだけ喋ってアキくんは家に帰ってった。
アキくんは来週末には日本を発つ。
…あー穂波に会いたいかも。
明日普通に会えるけど。