第35章 fun
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Cコート、北側。
『わぁ、井闥山、勝ったんだ…』
ちょうど前の試合が終わったとこで、
穂波ちゃんは井闥山が勝ったことを喜んどるんとはまた違うんやけけど、
なんやろな、まぁ、かわいい。なんやかわいい顔してそう呟いとった。
東京の子やで、学校も三校出とるもんな。
この性格やし、ひょんなことから知り合いとか友達増えてくんやろな。
『光太郎くーん!!』
飛び跳ねながらコートに入ってきた梟谷の木兎のことやろか。
穂波ちゃんは手を口に当てて、
珍しくゆーか、俺は初めて聞く大きな声で名前を呼んだ。
ばっとすごい速さでこっち振り返ったかと思うと、
猛禽類みたいな鋭い眼光でこっちをみた。
「穂波ちゃーーーん!!!」
でっかい声やなぁ…
こんだけスター性のある人が
あんなとこからこんなでっかい声だしたら
周りの視線はこっちに来るわな。
ごっつい見られとるけど
穂波ちゃんもなんも気にしてない。
ぶんぶん手を振って、
めっちゃかわいい笑顔見せとる。
なんなんマジでこの子。
二重人格とかそういうんちゃうのに、
全部穂波ちゃんっぽいのに、
見せる顔が時々で違うんやって。
ほんで、どれもかわいい。
それから、なんや、みんなが彼氏に見えてくるんやって。
これなんなん。みんなの穂波ちゃん感。
結婚したいけど、マジで浮気相手でもええよ、って思う。
けどあれやったな…
研磨くんに見せとる顔だけ全然違ったな…
「穂波ちゃん、さっきはごめんな」
『…ん? あぁ、キスしたこと? どきどきしちゃうね、思い出すと』
「…ほんまに? どきどきする? 怖ないん?俺のこと。嫌悪感とか抱いてへんの?」
『え?なんで? 全然、怖くないし、嫌な気持ちになんてならなかったよ』
「…なんでそんなケロッとしとんの」
『…わかんないけど。 ここだけの話』
穂波ちゃんは耳打ちしますよーいうポーズをとる
俺はそれに合わせて耳を傾ける
『治くんのキスは食べられてる感がすごくて、初めての感覚でした』
…アホちゃう。
何耳打ちしてきてんの。
襲うぞ。
ほんまに食べてまうぞ。