第34章 knit
…なかなか点差が縮まらない。
山本くんのスパイクをブロックが弾き飛ばして、
それをリエーフくんが長いリーチで手に当てた。
研磨くんが走ってボールの下へ…
『あっ』
…つい、声が出てしまった。
別にこの観客席で溢れたわたしの あっ なんて誰の耳にも届かないけど。
研磨くんが足を縺らせて転んだんだ。
べたんって、手をついて。
海さんがフォローしたけど、ネットに当たって音駒コートにボールが落ちた。
22-23。
お互いにだけど、でも… こんなに頑張ってこのセット落とすのって… キツい。
「このセットは早流川優勢だし、
ファイナルセットの為に一回孤爪下げるのもアリじゃねぇかなあ。
──あ!ホラ噂をすれば」
…そう、球彦くんが5番のカードを持ってベンチに控えてる。
研磨くんといつでも交代できるように。
…でも、今の福永くんのフェイントフォロー?
レシーブだって、きっと福永くんは読んでた。場所もきっとばっちりだった。
…でも、短い返球で乱れた感じがした。
でもでもでも!クロさんの速い速攻を警戒したブロックを振って、
研磨くんはライトにいる海さんにトスをあげた。そして決まった。
研磨くんがバテてるのは演技なんかじゃないけど、
確実に何か仕組んでる。
23-23。同点。
山本くんのサーブはネットを超えず。
23-24。
また、早流川高校のサーブ。
ゆるく前へ落とすサーブ。
でも、そこには夜久さんがいる。
でもでも、返球は少しライト側に流れる。
こんなの夜久さんのレシーブじゃない。
けど、ほんとに意図してやってるなら夜久さんかっこよすぎる。
ううん、夜久さんだけじゃない、みんなかっこよすぎる。
…くぅぅぅぅ
「オイヨイヨイ ソコはしっかり上げてやれよ …ん?」
だよね、やっぱりそうだよね、後ろの彼よ。
あああああ
研磨くんがゆっくり後退りする。
これ、わたし大好きなやつ。
肩をすとんと落としたまま、猫背で、すすすと。
相手チームのブロックが催眠術にかけられたみたいに、
研磨くんの動きに誘導されていく。
ここでレフトにあげるのかな、と思ったとこで
研磨くんはライトにいる海さんにトスをあげた。