第32章 あわ
ー穂波sideー
「はい、あーん」
研磨くんが淡々とした口調でクロさんに一掬いの粟ぜんざいを差し出す。
「はっ!? …やっ ちょっとっ 心の準備がッ」
クロさんは耳まで真っ赤にして横を向いた。
「…はぁ 早くして」
「…じゃ、じゃあ………」
たじたじのクロさん。
小さく口を開いて研磨くんのあーんを受け取る。
…ず、ずるい クロさん、ずるい!!!
『おっ 美味しい?』
ずるい!って気持ちに心も頭も占領されて吃ってしまう
「おっ おいしい…です サ…サンキューな…研磨」
そりゃおいしいでしょうよ!
クロさんすっごい照れてるし…
「…笑 はい、穂波。 あーん」
へっ!
わたしの前に粟ぜんざいののった匙が…
『あーん……』
ぱくり。 …ううう、同じもの頼んでるのに割増で美味。
「…ふ 」
『…美味しい ありがとう』
「…ん」
『…あ、研磨くんも』
お椀に入った粟ぜんざいを掬って…
『はい、あー………』
「………はい、ストーップ!!」
クロさんの声に遮られる。
「はいはいはーい 2人ともおんなじ粟ぜんざいですからねー」
『………』
「…はー、新年早々お熱いというか、バカップルっつーか、
これは縁起物って解釈して相違ないのかね……」
『………』
「穂波、それもらうね」
研磨くんが固まったわたしの手首を掴んで
粟ぜんざいをぱくって食べた。
うっ ずっきゅううん…
「…ん おいし。 冷めるから食べよ」
『…ん』
「あー俺なんか食いてーわ。やけ食い。磯部もち…雑煮… 鶏釜飯…」
「…釜飯は時間かかるって書いてある」
「………温めん。 …すいませーん温めんくださーい」
クロさんは温めんを追加して、
わたしと研磨くんは自分の粟ぜんざいを食べ進める。