第29章 山茶花
ー黒尾sideー
「あーちょっとそこの君。ほら、そこのっ金髪の」
…って、この爆音の中じゃ聞こえねーよな。
さっき研磨と穂波ちゃんのことを熱く語ってた
ギターも歌もMCもすげーうまいやつ。
…こういうのってずるくないですかー?
楽器弾けるのってずるくない?
いま俺の前方で頭振って身体揺らして、踊ってるっつーの?
この遊び慣れた感じもずるくねー?
俺は結局部活中心の生活してきてるから
こーいう遊びはまだ全然知らねーし。
「おいっ、お前、黒尾さん!」
「やべー睨まれてんぞお前。目で殺される」
睨んでねーし、目で殺せねーわ。
ただ見てるだけだっつーの
「悪かったですねぇ〜 生まれつき目つきが悪いもんで」
「ひぃぃぃっ すみませんっ!」
「あ…いや、君マジでそれやってる?」
「…すんません、ちょっとノリで。そんな怖い人だと思ってないっス」
「…笑 正直だな。そういうの、嫌いじゃないよ」
「…なんか、用でしたか?」
「あー、ちょっと聞きたいことあって。楽しんでるとこわりぃ。いい?」
「あー全然!もう十分楽しんだんで!」
音がでけーのに変わりはないが、壁際に行って話す。
どうしても声を張る必要があるし
それでも聞こえなかったり大声出すのが面倒になったら
耳の近くで話することになる。
…これ、ナンパにもってこいじゃん。
何で俺、男に話しかけてんの。
「…あれっすよね、ステージで俺が喋ったことっすよね」
「…あぁ、そうなのよ。今日ちょっともやっとすることがあってね」
「俺もそれ、偶然聞こえてて。
それもあって、あんな風に人前で話しちゃいました。…あれっすよね、部室の前で、今朝」
「あ、ナルホドネ」
「あ、別にあれがあったから作ったセリフじゃないんすよ。
ほんとにそう思って、言わずにはいられなかったっつーか」
「…そっか、いや君がなんであんなことわざわざあそこで言ったのかなーって気になってさ。
俺も結構思い入れがあるというかね、見守りたい2人なもんで。
ありがとな、なんつーか、すっきりした」
「えっ、もしかして黒尾さんそれだけのために話しかけたんすか!?」
「…だな、つくづくしょーもねーけど… やっぱ俺、過保護なのかもしんねーな」
…ほんと、俺何やってんだか