第29章 山茶花
ー赤葦sideー
11月24日(土)
「なぁ、あかぁーしー」
今日と明日は学園祭だ。
もちろん部活も普通にある。
場所が区の体育館になるだけで。
行きにロードワークも兼ねた移動が追加されるだけで。
俺のクラスは普通に喫茶店をしていて
射的の店をしてる木兎さんは商売道具であろう銃を持ったままここに来ている。
何か、話したいことがあるらしいけど。
「明日って学園祭来なきゃダメなの〜?」
「どうしたんですか、木兎さん。どこか具合でも悪いんですか?」
昨年の学園祭、2日間終日はしゃぎ回った挙句、
部活の時間にはスタミナ切れになっていた木兎さんが。
明日、学園祭に来たくないと思っている?
「明日は後夜祭でしょー?別に店もやんねーし。来なきゃダメー?」
「いえ、出席には関わらないないはずですけど… ちょっと失礼します」
額に手を添えると… 至って平常の体温だ。
「音駒もさぁ、今日明日なんだってー 木葉が教えてくれたー」
「音駒… 文化祭がですか?」
「そーなんだよー 代表決定戦も来てくれてたみたいだけど、結局会えなかったしぃー
会いに行きたいなーって思って」
「………」
「音駒の文化祭って有名じゃん?ふつーにおもしろそーだし」
「行きましょうか」
「ほぇっ!?」
「俺も明日、特に仕事ないので。部活に間に合うように帰ってきましょう」
「まーじでー?行く行くー!やったねー!赤葦とお出かけ嬉しいなー!」
「…そこですか」
「んー?」
「…いえ、なんでもありません」
…俺も、代表決定戦で会えると思っていたところ会えなかったので、
少々会いたい気持ちが募っていた。
会えないとわかっていたら、耐えうる時間も、
会えると思っていたのに会えないとなると、途端に耐え難いものになる。
「じゃあ、明日の朝部室で」
「いや赤葦、今日の放課後も会うからー!」
「あ、そうでした」
明日は制服で部室まで来て荷物を置いて、
電車で音駒のある駅まで行けばいいだろう。
自校の学園祭ではなんの動きもなかった心が
音駒の文化祭に行くという案が出た途端、沸き立っている。
人を好きになるというのは本当に豊かなことだ。