第29章 山茶花

ー研磨sideー




野菜のとこは大丈夫だったけど
魚介とか肉のコーナーがちょっと寒くなってきて一瞬逃げた。

でも穂波だって寒いんだし
おれだけ逃げるのはどうなんだろうとか思ったりして。
一瞬、のつもりだった。





さっきいたベーコンとかあるとこに戻ろうと思ったらどうも穂波はいなくて。
左右をみると来た道を戻ってるみたいだった。
…なんか、入れ忘れたのかな。






「可愛らしい奥さまね」

「…え？」





穂波のいる方へ向かおうとしたら
さっき穂波に話しかけてたおばあさんに声をかけられる。





「あなたが山茶花をあげたの？」

「…あ、うん」

「薄桃色の山茶花の花言葉、ご存知？」

「…花言葉」

「うふふ。　まぁ、いいわ。　良い奥さまをもらえてよかったわね」

「え、あ、いや　おれらまだこうこ…」

「あら、まだご結婚されてないの？　一緒に夕飯を食べるんでしょう？
…あぁ、婚約されているのね。　まだお若いものね」

「こんやく… え、ちょっとちが…」

「奥さん、お料理上手でしょう？」

「…あ、うん」

「そう、それでいいのよ。外で褒めすぎなくてもいいけど、不要な謙遜もいらないの。
奥さまのことを愛してるって気持ちは隠さなくていいのよ」

「…」





今日、してるとき言いかけて
やっぱ無理って思ってやめた。
あいしてるはまだおれには早い。






『…あ、研磨くんいたぁ。　あ、こんにちは。　…ふふ』

「あら、奥さま。今、奥さまのこと話していたのよ」

『…奥さま？』

「寡黙だけどちゃあんと奥さまを見て、愛してくださる素敵な旦那さまね」

「ちょっ…」

『へっ』

「まぁまぁ２人とも照れちゃって、かわいらしい」

『…』

「永遠の愛」

「？」

『？』

「薄桃色の山茶花の花言葉は　永遠の愛、ですよ」

「…」

『…』

「末長くお幸せに、おふたりに会えて嬉しいわ。またお会いしたら声かけてくださいね」

『あ、はい…わたしも嬉しいです』

「…ふふ、本当に可愛らしい奥さま。旦那さん、それじゃあね。
奥さまのお腹が大きくなっていくのもお目にかかれたら嬉しいわねぇ…」

「！」





呟きながら去っていくおばあさんの背中に
穂波はぺこりと小さく頭を下げた。