第24章 かぼちゃ
ー赤葦sideー
知識として知ってはいたが
穂波ちゃんというフィルターを通してみると、
今までにはなかった色や奥行きみたいなものを感じる。
身近なものになるというか…
『12月はなにがあったっけな〜?』
大鍋の乗ったコンロの火を大きくしながら穂波ちゃんは言う。
『あぁ、大雪。雪はやっぱ温暖化とかが影響してるのか降らないことも多いけど、
でも空が真っ青に澄んだりして、風は本格的に冷たくなって…
熊が巣ごもりする頃なんだって。マタギの人とかにはほんとに大事な頃合いなのかなぁとか、妄想』
「…マタギ」
『大雪は始めの頃だし、京治くんの誕生日の頃だね。…そのあとは冬至』
「かぼちゃ食べるよね、あと、柚子風呂」
『ね!京治くん家もするんだね!柚子風呂、いいよね。
香りもだけど、あのころころしたゆずがぷかぷか浮いてるのがたまんない』
「…ぷかぷか」
『…あ、ごめん、一人で興奮しちゃった』
穂波ちゃんの喋る様は本当に魅力的だ。
うっとりとした顔をしたり、楽しくてたまらないという顔をしたり。
その際の声色にはいろんな抑揚があるけれど一貫して落ち着いていて、すっと耳に入ってくる。
「いや、楽しいよ。冬至、好きなのかな」
『うん。冬至ってさ、12月の終わり頃で。寒い。寒いけどまだまだこれからもっと寒い。
けど、今日から夏至に向けてどんどん日は長くなるんだって思うとなんていうか。
わくわくするし、もっと冬が厳しい環境に生きてる人たちにとって、
どんなに光刺すような日なんだろう…って想像するとゾクゾクする』
「…なるほど。日照時間が一番短い日、としか把握していなかった。
少し考えればわかることなのに。 …やっぱり穂波ちゃんの見ている世界を一緒にもっとみたいな」
『…京治くん』
「…ん?」
さっきまで大鍋からのぼる湯気をキラキラした眼差しで眺めていた穂波ちゃんが
こちらに身体を向けてぽかんとした顔で俺を見上げてる
…どこか、恥ずかしそうに