第8章 私という存在
「お呼びですか、クザンさん」
だらけきった正義を掲げた額を背に、それを体現しているクザンが椅子に凭れて寝てた姿勢から起き上がる。
アイマスクをずらせば眠そうな目がこちらを向いた。
「呼んだっけ?」
「……えぇ」
「やだやだ、そんな怖い顔しないでよ」
ひきつった顔を隠しもせずにクザンをみれば呼んだ気もするねと言った。
「ポーネグリフの件、明日出港だっけ?」
「えぇ。午後イチには出ます」
「あそこの島、ほんと情報ないから気を付けてね」
「わかりました。でき得る限り島の情報も持ち帰ります」
「頼むね」
ぺらっと計画書をこちらに渡してくる。これは今回の任務の計画書で、ジルが完璧に纏めあげたもの。
クロエとクザンは読んでサインしただけ。
「ほんとジルが居なきゃお前の隊は回りそうもないね」
「ほんとですよ。いい部下に恵まれました」
はははと乾いた笑いを返しておいた。
「そうそう別件なんだけどね、入隊前に住んでた家、取り壊されるみたい」
「スワロー島の、ですか」
「そう。大きい施設建てるのに土地が欲しいんだって。クロエちゃんさえよければ売っちゃおうと思って」
「貴重品などありませんし、私の生活拠点も軍艦か本部なので問題ありません」
「じゃぁ先方にOKだしておくね」
久しく思い出した故郷ともいえる島。
クザンが本部入りし、完全に離れて一人住んだ家。
そしてロー達と出会った場所。
瞳を閉じても鮮明に思い出せる記憶。
ローと共に過ごしたあの家。
すこし懐かしさが込み上げた。