第8章 私という存在
こいつはニガテだ。
「フッフッフッ」
ニヤリと笑って人の前を塞ぐ男。
でかすぎて視界がうまる。
「考えてくれたか、ファミリーへの勧誘の件」
「海軍の艦を占拠しておいて、用件はそれなの?」
私の自室、応接ソファの一人がけの椅子に縛り付けられたまま睨みあげる。
この糸、本当にキライだ。
「お前からは是非ともいい返事が聞きてぇんだ。出来るなら無理矢理じゃなくな」
「無理」
「無理じゃないさ。人を支配するなんて簡単なことだ」
「勧誘したいなら下手に出な。上から目線でモノを言うんじゃないよ」
動かせる足でやつの脛を蹴ろうとするが、避けられる。
足癖ワリィと言われるが、苛立っているからしょうがない。
ドフラミンゴが船に近づいてきたのは分かった。
だがいきなり遠方から船自体を糸で襲い部下を操られては怒りもわく。
出迎えて用件を聞けば話がしたいと言うから、聞く代わりおとなしく能力を解除させれば今度は私が縛られた。
まぁ操ろうとしたのを跳ね返したせいもあるが、部下を盾に使われれば頷くしかない。
おちついて自室で話を聞いたのはいいが、いつもの勧誘話でうんざりだ。
上から目線も、高圧的な態度も、笑い声も嫌いだ。
嫌いな一番の理由は、ある意味十数年もの間こいつに囚われているローにもあるのだが。
「そう邪険にするなよ。本題は本部に用件があって行く途中で見かけたから乗せて貰おうと思ってな」
「断る。自分で行け」
「部下の奴等は滞在の準備をしているようだが?」
「……」
変なところで空気を読む部下にため息が出る。
ドフラミンゴを退けられないのはわかっているが、まだOKも出していないのに先を見越して部屋など準備するな。
眉間に深くシワが寄り、ドフラミンゴを睨み付ける。
なんだって癒された休暇明けにこいつの相手をしなければならないのだ。
「綺麗な顔が台無しだぜ?」
「…っ」
顎を捕まれ上を向かされると、眉間に触れた唇。
間近に聞こえるやつの声に全身に鳥肌がたつ。
そのまま更に顔が近づいてきて、やつのサングラスに目を見開く自分が写った。
「おっと」
唇が合わさる瞬間、覇気で糸を切り手刀で首を落とそうとした。
素早く後退して入り口まで下がるドフラミンゴに、追うように短剣を投げつけてやった。
「フッフッ、他に男でもいるのか」
「お前よりも遥かにいいイケメンがいるよ」