第6章 休暇(後半)
「うわー視界が高い!」
入れ替わった体にテンションが上がる。
いつもよりずっと高い視線に、低い声。
少し見下ろす位置には不機嫌顔の自分の姿。
「ちっせぇ」
「これでも女性の平均より遥かに身長高いからね、私」
クロエの姿で鬼哭を担ぐ様は異様で、危ない雰囲気満載だった。
「る、るーむ……ぅわっ」
「あそぶな」
いつものローの真似をして能力を使ってみた。
だって物を浮かしたり瞬間移動したり面白いじゃないか。
魔法みたいで楽しい。
「俺の姿でバカ面するな」
「なら私の姿で怖い顔しないでよ。眉間のシワくせ付いちゃったらどうしてくれるの」
グリグリと自分の顔に深く刻まれたシワを伸ばすように親指で撫でると払い除けられた。
「すぐ作るから邪魔すんな」
「はいはい」
食材を手にコテージの簡易キッチンに向かうロー。
手際よく調理するその姿を眺めながらクロエはローの体の自分で遊んでいた。
(体が硬い…でも重くないから筋肉よりは筋力があるのね。細身だし…)
ペタペタと体を触りながらスキャンしてみたりと勝手気儘に弄る。
あちこちに入っているタトゥの多さに若干引きながら、胸のタトゥのラインをなぞっていた時だった。
(ちょっとムラっときちゃった…)
いつも自分がローのを口でする時に見上げる腹筋。
その気にさせる時に舌でなぞるタトゥ。
思い出してしまったら少し弄るのを躊躇して手が止まったのだが、そこで気付いてしまった。
(少し勃って…)
もやもやと情事を思い出していたら体が反応してしまった。
少し冷静になれとプチパニックな頭はローの方を見た。
それが悪かった。
キッチンを向く後ろ姿は自分の物だが、そこにローの精神があるとなるとそれはもうローにしか見えなくなる。
スラッとした背中に細く括れる腹にきゅっとあがったお尻。
(あー…なんだこの気分)
触りたい。
ローに触りたい。
体は既にローの背後に回り、腰に手を回していた。
「あぶねぇな。切ってるときに寄るな」
「ねぇ、ロー…」
振り返って文句を言うローに、ちゅっと短くキスをした。
「おまっ…なに欲情してんだ。自分の体だろ」
「そうだけど、なんかローにしか見えなくなってきちゃって」
「ヤルならもとに戻してからにしろ」
はやくもとに戻せ、とローは言うがクロエは良からぬ事を考えていた。