第5章 最速・最年少記録を持つ女
『言っとくけどな、クロエ中将は能力者じゃない。なのに幾度も死線を乗り越えてきた能力者達が悉く熨されてんだ。それだけでも化け物染みてるのに、彼女の隊の訓練は毎度死人が出る一歩手前のやつらが量産されるほど狂ってるらしいぜ』
『……』
『噂で聞いただけだから本当かどうかは分からねぇが、訓練期間中、普段の生活のなかで突如クロエ中将に襲われるらしいぜ。しかも一発で即死する攻撃』
『訓練ですかね、それ…』
『さぁな。あくまで噂だ』
『俺はカームベルトのど真ん中で船から突き落とされて、離れた陸地に向かうサバイバルをやっているとも聞いたことあるな』
『それ、死にません?』
『まぁ、死者は出たこと無いらしいが…』
青ざめてしまったザ・新人に、同じような色のペンギン。
「俺たち幼馴染みで本当に良かった~…」
「…だな」
心底ほっと胸を撫で下ろす二人に、そこまでひどい訓練してないよと返すが疑ったままの目だ。
「でも今の訓練の話しは本当だろ?」
「まぁ、だいたいは。楽しかったな、あれ」
「ほら!その顔ドS過ぎだよっ」
ベポは笑うのやめてと両頬をつかんできて涙目になっている。
そんなベポがかわいいなぁと思ってしまうので口は笑ったまま。
「でもクロエって長年付き合ってても、いまだにつかみどころがないと言うか不思議な人だよね。底が見えない」
「確かにな。同年代とは思えないような、達観したような発言も多々あるしな」
うーんと思案顔になるベポの肉球をむにむにしながら、クロエは少し目を伏せる。
「年の功、だよ」
「お前は俺より年下じゃねぇか」
ペンギンに笑い飛ばされるも、薄く笑い返すだけのクロエに二人は気づかなかった。