第4章 生い立ち
グランドラインの隅、あまり人の出入りのない島にその一家はいた。
島内では一番の敷地と権力をもつその家は、当主と奥方、そして二人の幼い女の子が住んでいた。
誰が見ても羨む輝かしい一家に不運が訪れたのは、秋も深くなった頃だった。
一家を不慮の事故が襲ったのだ。5歳の妹が、嵐で荒れ狂う海に転落して行方不明となってしまったのだ。
絶望的な状況に当主は顔を覆い震え、奥方は泣き崩れた。誰もが失くなったであろう少女を偲び、両親に同情した。
だが、両親の口許は弧を描いていた。
当主しか知らない隠し通路のさらに奥、屋敷でも誰も立ち入らない隅の部屋にその少女はいた。
騒ぐわけでもなく、ただ静かに、自らの状況を受け入れ、5歳とは思えない暗く淀んだ目をしている。
少女は知っていたのだ。
自分が何故虐げられ、放置の末殺されそうになっているのかを。
自分が異質だからだ。
少女は生まれる前の記憶、すなわち前世の記憶があった。
約一年前の4歳の誕生日を迎えた頃にそれは突如として甦った。
それからというものいくつもの御払いを試された。
なにかに憑かれたと考えた両親はあらゆることを試したが、改善されないため途方にくれ、だんだんと娘が怖くなっていった。
何度少女が説明しようと試みても聞く耳をもって貰えなかった。
最終的に両親は事故に見せかけ存在を消し、屋敷奥深くに幽閉したのだった。
だが天は彼女を生かした。
ある雪も深く積もる晩、親族を招いて行われたパーティに招かれていた男は酔い冷ましがてら屋敷を散歩していた。
幼い頃に遊び回った記憶を辿るように足を進めていた男はひとつの隠し扉を開ける。
そこはかくれんぼをしていた時に自分だけが知っていた場所だった。
懐かしさに中に入ってみれば、当時よりだいぶ狭く感じる小部屋。
相変わらずなにもない中をぐるりと見渡して出ようかとしたところで、当時は見つけられなかった新たな隠し扉を発見した。
小さく狭いそこを、長身の体を縮めて入り込む。
通路を抜けると歪んだ壁の隙間から漏れる外の月の光だけが照らす、暗い部屋だった。
良からぬことに使われそうだねぇと思った男の目は、僅かに動くものを捉えた。
それが5歳の少女だった。