第23章 ハートの新人、初陣
「おー今日も元気に跳ねてんなぁ」
ペンギンが甲板に出ると上空を影が動き回る。
ギリギリ目視できる速度のそれはクロエが"剃"をする姿。
旗よりも高く舞い上がり、空を翔るクロエはとてもイキイキとした表情。
ここ最近感覚と体のキレが戻ってきたようで、いつにも増して体を動かしていた。
「ペンギーーンッ!」
その場を離れようとすればペンギンに気づいたクロエが目の前に着地した。
軽くジャンプした程度の着地音しかなく、流石だな、と声が漏れた。
「もう六式使いこなしてんのか?」
側においてあったタンブラーで水分補給しながら「全然」とクロエは苦笑いした。
「速度も遅いし、指銃とかまだ試してないからね…試せる所ないし…」
「最近は海獣もめっきり出なくなったしなぁ」
「…海賊船でも襲ってこないかなぁ。腕試しに返り討ちにしてやるのに」
「物騒な女だな」
「海賊ですから」
「そーだったな」
にぃっと笑った顔が故郷の島に置いてきた幼さの残る顔で、少し目を見開く。
見た目以上に幼いその顔が、久々に彼女が年下だと思い出させ、思わず頭に手を伸ばす。
幼い頃なら数えきれないほどあった彼女に触れる行為は、当たり前だが大人になるにつれなくなり、触れた髪の感触があまりにも柔らかくて、気付いたら指を髪に絡めていた。
「お前は…すげーやつだよな、昔から…」
「ペンギン…?」
さほど変わらない身長だが、少しだけ彼女の方が小さい。
見上げてくる瞳に微笑んで、ワシャワシャと髪をかき混ぜた。
「あんまり急ぎすぎるなよ。本調子じゃなくても、お前には共に戦う仲間だっているんだ」
「…ん」
撫でる手に戸惑うように視線が揺れたが、最後は再びにっと笑った顔。
もう少し大人しい性格ならば妹として可愛がりたかったなと内心残念に思った。