第21章 番外編 初めてのキス
話は逸れたが、そんな女が今自分のテリトリー内に居る。彼女も本気で嫌ならすでにここの位置にはいない。許せる距離なのだろう。
それなのに一向に頷かないクロエを追い詰めるように、足の間に膝を割りいれる。逃がすつもりなんてないのはわかっているだろうから、早く頷けば良いのに。
「たかがキスだ。目ぇ瞑れ」
「女の子にそんなこと言っちゃイカン!」
くわっと怒ったような表情を作るクロエ。言ってることがわからんわけでもないが、そもそも他の女相手にこうする気は今のところないし、クロエもファーストキスに夢を抱くような性格でもない。だから直球で聞き許可を取ろうと聞いたまで。初めてを経験するならクロエがいいと思ったのだ。
それでもまだ考え込むクロエに勝手にしてしまおうかと思い始めた頃、漸く「わかった…いいよ」と声が聞こえた。
再度視線を向ければパチリと目が合い、それからクロエはきゅっと目を瞑った。
「……」
可愛すぎだろこの女。
身長差がひらき始めたこの頃、顔を合わせるにはクロエは見上げるようになってきて、今も少し眉根を寄せた険しさはあるがキスを待つ女のそれに、心臓が変な動きをした。
まさか本当に…?
抱く思いは家族愛、じゃないのか。そもそもキスをしてみたくなる時点で家族ではなくなっているのか。
気付き、膨らみ始めた気持ちを確かめるため、そのぷっくりと赤く色付く唇に己のを重ねた。
end.