第19章 番外編 いつかの未来
ゆらゆら
体が僅かに左右に揺れる。なんだか体がダルい。これは高くはないが少し熱があるな。
ゆらゆらゆら
まだしつこく体が揺れる。誰かに揺さぶられているが、その力は弱くて振動のようだ。二の腕辺りに暖かい何かが当たっていて、そこを中心に揺れている。
――――、
言葉は聞き取れないが声が聞こえる。高い声だが女ではない声。子どものようだが、近くに子どもなんていただろうか…
いや……いた。
だって私の…
「母様!」
ぺちっと頬に当たる掌が小さく暖かい。パチパチと何回か瞬きを繰り返せば頭がはっきりしてくる代わりに視界が陰る。ぬっと視界いっぱいに現れたのは幼い顔のロー…
ではなく私の息子だ。
「母様、だいじょうぶ?」
頬に当たる彼の手が額に移動する。熱を測るかのような仕草に思わず笑みが漏れる。その手をつかんで大丈夫と言えば、ぱっと顔が明るくなってにっと笑った。
「父様の言った通りだ」
クロエから離れ、サイドテーブルの用紙になにか書き込む様子を眺めていれば部屋の扉が開く。
「父様!」の声に顔を上げればローがトレイ片手に入ってきていた。
「目が覚めたか」
「うん!熱も下がってて体調も良さそうだよ」
「そうか。記録したか」
「うん!」
さっき書き込んでいた用紙をローに見せる。その身長差からローは息子の前にしゃがみ視線を合わせて話をする姿に心がほっこりと暖まる。あの冷酷で残忍な死の外科医と悪名高い彼も、人の親となればあの顔だ。もとより根の優しい男だからこそ、この振り幅なのだろう。
〉つづく