第14章 番外編 ハートの1日
腹も膨れ、早い人ならば早々に自室に引っ込み寛ぐ中、調剤室へと向かう。
仕入れた本と薬草で新しい薬を作るのだ。
静かな室内でゴリゴリと薬草をする。独特な香りが漂うなか細かく計量し混ぜる。
一晩寝かせる必要のあるそれらを仕込み終えると、時刻は既に深夜1時を越えていて、凝り固まった体を伸ばせばごきっと盛大に骨がなった。
集中力が切れたことにより眠気が襲ってくる。これは部屋まで移動するのは面倒だ。
早々に自室へと行くのはやめて部屋を出て隣へと向かう。ローの自室だ。
「入るよ」
ノックと同時に声もかけて室内へと入る。
返事はなかったが気にはしない。いつもの事だ。
(寝てる…)
寝落ちしたという方が正しいか。
ベッドボードに背を預け、膝には開きっぱなしの本がある。
器用に座ったまま寝るローに近づきその膝から本を取ってデスクに置く間も微動だにせず眠るローは珍しい。だいたいは本を取った時には起きてしまうのに。
それに変な格好で寝ているから眉間にシワがよっている。ここ数日の夜更かしが祟って最高潮に眠いのだろう。
この部屋に置いてある自分の短パンとローのTシャツに着替え、ベッドに上がる。
その揺れでやっと人が近くにいるのに気付いたのかシワを深くしながら目を開けた。
「…クロエか」
「そ。お邪魔するよ」
掛け布団の中に潜り込めばローも再び寝るのか体をずらして同じように潜り込む。
片腕を伸ばしてきたから頭を少しあげ、その腕に乗せてくっついた。
「…いい匂いだ」
寝ぼけているのかなんなのか、頭のてっぺん辺りに顔を寄せて深呼吸される。
すーはーすーはーと繰り返される小さな音に恥ずかしくなる。
「そんな吸わなくても…」
「落ち着くんだ」
「あ、そう…」
それなら、しょうがないか…。
頭の下の腕は肘で折れてクロエの頭を包み、もう片方の腕は背中へと回り、下着のない素肌を撫でる。
足をからめとられてローの体に引き寄せられればいつもの寝る体勢の出来上がりだ。
多少の腕や足の重さがあるが、すでに慣れてきたためにローと寝る時はこうしないとなんだか落ち着かなくなってきたほどにお決まりの体勢。
既に寝入ったローにすり寄り先ほどのローと同様、深く呼吸すれば彼の香りを強く感じる。
これ以上ない安心感に包まれながら、クロエの1日は終えた。
end.