第2章 幼馴染みたち
(ペンシャチベポ視点)
我らのキャプテンには愛してやまない幼馴染みがいる。
幼馴染みという立ち位置は、船長だけではなくて俺達にも当てはまることだけど。
とにかくキャプテンはこの幼馴染みが好きで仕方ないようで、どれだけ離れて暮らしていようが彼の生活の至るところで彼女の存在が見て取れた。
「キャプテンもまめだよな、新しい島では必ず特産の酒を見て回ってるし」
「俺様ドSで周りを強引に引っ張るくせして彼女にはあっさりと従うしな」
ローが先に持っていった酒とは別に、過去に彼女が気に入った酒を今回も仕入れていた。
それを手土産に今は彼女が泊まるコテージへと三人で向かっている。
すっかり辺りは暗くなってきて、夕飯時だからかどこからか腹を刺激する匂いが鼻を掠めた。
「クロエに会うの、オレ楽しみだな」
ベポが酒の入った箱を抱え直しながら言う。
隣には屋台街で買い漁ってきた食料が入った袋を両手に下げたペンギンとシャチが並ぶ。
「まだあの食いっぷりは健在かね」
「キャプテンが"大量に"買ってこい、って付け加えるくらいだからそうなんじゃねェの?」
「俺ら並みに食うからな、クロエ」
酒も浴びるように呑めば飯も大食い。
どこの意地汚いオヤジだと聞きたくなるが、実際は細身の女性。
よくあの体に入るもんだといつも感心してしまう。
「足りるかな?」
ベポが買ったものを見下ろしながら呟く。
たぶん、大丈夫だろう。
たぶん。
「ま、足りなかったらルームサービス頼もうぜ」
「だな。超高級リゾートのご飯も気になるしな」
たんまり稼いでるっぽいから奢らそうぜ、と悪い顔をしながら3人は歩みを早くした。
ローと同じようにコテージの前まで案内された三人は入るかどうか悩んでいる。
理由は中から聞こえる声と洩れ出る禍々しい空気にあった。
ー信じらんない!
ー謝っただろ
ひゅっ、と鋭く風を切る音が聞こえたのは幻聴か。
だがペンギンが隣の仲間を見ると聞こえたのは自分だけではないようだ。
中の喧騒はまだ続く。
ーこんな見えるところに、しかも状態が酷すぎる!
ー………
ーくそ暑いのにタートルネック着れっていうの?
今度は組手をしている時のような音と、バタバタと暴れている音がする。
いったい何をやっているんだか、出た溜め息が3人分あったのは不可抗力だ。