第12章 青紫の眼と新たな仲間
ローもここでやっぱりやめます、なんて言葉がくるとは微塵も思っていないだろうが、それでも一船の船長を担う彼。他のクルーへの示しもあり確認せずにはいられないのだろう。
強気で男勝りでドS気質強めの女。
しかもクルーの敬愛するキャプテンの女で海軍本部中将の職を異例の早さで手にした元海兵。
こんな人間が入ってきたらパワーバランスがおかしくなるのは当然。
キャプテンを蔑ろにするようなクルーは毒にしかならなく、普段は好き勝手言えても船長命令に従えないようじゃ船は沈んでしまう。
性格はどうにもならないが、他のクルー同様、ローをきちんとキャプテンとして立てられるのかどうか不安があるのだろう。
もしかしたらローが確認したいのではなく、クルーの中でそういった確認は必要だという意見があったのかもしれない。
安心させるためには仕方がないかと内心に照れ臭さを押し込めてクロエは立ち上がり、ローの側に寄る。
じっと見つめてくるローを見つめ返しながら、組まれたローの手をほどき片手を引き寄せ、視線が上を向くように跪いた。
「心身ともに、貴方に絶対の忠誠を」
敬愛・忠誠の意を込めたキスを入れ墨のある手の甲へ。
押し込めた照れ臭さが心の中で暴れるが、キスの際に閉じた瞳を開けて再度ローを仰ぎ見る。
「…ふふっ」
目をまん丸くしてぽかん、という言葉が当てはまる顔のロー。
案外この男は感情が表情に出る。
笑い声が漏れて肩が揺れれば我に返ったローがギッと睨んだ。
「笑うな」
「だって…間抜けすぎだよ、その顔」
片手で帽子の鍔を下げて顔を隠すロー。
これ以上笑えば機嫌が急降下するので咳払い一つでおさめる。
「それで、お返事頂けますか?」
握ったままの手を反し、今度は掌に唇を落とす。
懇願の意のそれに、「キスの意味はわかるよね?」と瞳で促せば、溜め息をついたローに手を引かれて立ち上がらせられた。
「乗船を許可してやるよ。よろしくな、新人」
「どうも、キャプテン」
にぃっと笑えばぐちゃぐちゃに撫でられる頭。
種類は特定できないが、繋がったままの電伝虫が視界の端に写る。とりあえずスルーしておこう。
そりゃ、こんな人物がいきなり入ってきたら不安だものね。
「スネにでもキスしたら、もっとよかったかな?」
「やめろ…」
※スネへのキス…相手への服従